こぼれてモーニングコーヒー

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 箱詰めをなんとか終えた日曜日の午前9時。  引っ越し会社の作業員がテキパキと段ボール箱を運んでいく。彼との生活の跡が1つ、また2つと消えていき、1時間もせずに部屋の中はほんとうに何もない空間となった。  忘れものがないか部屋中をチェックしてまわる。ベランダに置いてあったゴム製のサンダルや、シンク下に張っておいたビニールシートを剥ぎ取り、ゴミ袋に詰め込む。    最後に残ったのは、シンクの下から出てきたコーヒーパックの束だった。  私のものじゃないし、もう飲むこともないよね。  ひとつ、ふたつと、ためらわずにゴミ袋に放り込む。    使いかけのパックを最後に残したところで、ゴミ袋がパンパンになった。  足でぎゅううと踏み潰すと空間がわずかにできるが、足を浮かせると元に戻ってしまう。  踏みつけながら、最後のコーヒーパックをねじこんだとき、チャックがぐにゃりと開いて、ぽろぽろと2、3粒のコーヒー豆がこぼれ落ち、床に転がった。    足の力が緩まり、袋からぱらぱらとこぼれながら散らばっていく。  私は、床にぺたんと座り込んだ。
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