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ウルシアは自分の新居となる病室に足を踏み入れた。
この移動を手配した関係者によると、大病院に年の近い少女がいるらしい。如何やらその少女がこの町を案内してくれることになっているようだ。
その少女は午前11時にウルシアの病室まで迎えに来てくれるそうなので、それまでは部屋の片づけをして時間を潰す事にした。
現在午前十時。引越しと言っても一言で纏めてしまえば長い入院なのでダンボールが山積みになるような事はなくウルシアはせっせと服を片付けるだけだった。
部屋の位置はなかなか彼女の好みに沿っている。窓から木々が茂った中庭が見えた。
最近出来た病院という事もあり、此れまでの病院のように白を基調としたデザインではなく、木造の柱や観葉植物が目立つアットホームな作りになっていた。
此処にくる前に通院していた病院は、まさにそれらしい白色をしていたためウルシアは胸の高鳴りを抑えられなかった。
おまけにウルシアの部屋は立派な個室で、ずいぶんと広く感じる。
最低限の荷物を要領よく片付けたウルシアは窓を開けた。
軽やかな風が金髪に輝く三つ編みを靡かせる。そっと目を閉じてみる。中庭を吹き抜けて、舞い上がってきた風は何処となく心地良い。
其のとき部屋をノックする音が聞こえた。
「はーいどうぞ」
ウルシアははしゃいで少し乱れたシーツを無意識に整えた。
失礼します、と入ってきたのは黒い髪をしてドクターだった。
あまり見かけないその髪の色よりも、ウルシアは彼の顔をじっと見つめた。
「こんにちはウルシアちゃん、ミアです。今日から君の主治医だよ、よろしく」
ありふれた自己紹介と、それに乗せた優しい声。ウルシアはミアを見据えながら、
「似てる……」
とだけ呟いた。ミアは若干首を傾げ、敢えて何も聞かずににっこりと笑う。
「前僕を診てくれていた先生に似てる!」
ウルシアの表情がパッと輝きだす。知人と似ていたところで珍しい事ではないのに、彼女はこれを運命だと思った。
「あらためて、僕はウルシア! これからよろしくな、ミア先生!」
最高の笑顔で手を差し出したウルシアにミアは軽く微笑んだ。ミアも新しい患者には多少緊張する。だが、たった今その緊張は一掃された。
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