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この場所では自分を理解してくれる者ばかりだと改めて認識して、ウルシアは気持ちが楽になった。
動かない左足を笑う者もいないのだ。
というのは、ウルシアは脳の病気の所為で、昔起きた発作をきっかけに左足の自由を失った。左手も時々痺れるが、私生活に不自由はない程度だ。
それでも四肢のひとつが動かないと言うのは割りと不便な話で、其れを笑われるのはどうしようもなく腹が立った。
もうそんなことは無いと思ったら、急にさっきまでの不安が消えていく気がした。それは慣れた先生に似ているミアを見たからなのかもしれないけれど。
「ミア先生、シルテが来るまで話そうよ! まだ時間があるんだ」
シルテとは、町の案内をしてくれる少女の事である。
ウルシアはベッドに座り、ミアは近くにあった丸椅子に腰掛け、二人は向き合う形になった。
「ミア先生は変わった髪の色をしてるんだな!」
「父親の遺伝だよ」
「へぇ~綺麗な色!」
金髪の自分とは似ても似つかない色は、とても物珍しくてついつい見入ってしまう。
少し癖毛なのか少々内側に巻いた髪と、整った顔立ちが彼の温和な性格を際立てているようにも見えた。
何でもない会話に花が咲き、時間はあっという間に流れていった。気付けば約束の時間になってちょうど其の頃に二度目のノックの音が響いた。
「シルテだ!」
ウルシアは近くにあった松葉杖を手に取り徐に立ち上がると、スライドドアの方まで駆けていった。
ミアはその姿を見てもう一度安堵した。
彼女の医療情報を見たときは不安だった。難病を抱え、ハンディを持ち、其れでいて多感な年頃の少女である。移転が決まった数ヶ月前からずっと、ウルシアについて悩み頭を抱えていた。しかしそんな心配を余所に彼女は活き活きと自分から話すし、ハンディもあまり気にしていない様子だ。
素直に『この子で良かった』と思えた。
「はじめましてウルシアちゃん、これからお世話になります」
ウルシアの目の前にいたのはやはり彼女が待っていたシルテという少女だった。
小柄なウルシアより遥かに高い身長とやけに礼儀の良い挨拶を聞いて、年上だと勝手に解釈した。
ブロンドのツインテールが艶めいて、零れそうな大きな目とそこから伸びる長い睫毛を見たところ、一目で絶世の美女だと言うことが分かった。
「町を探検しにいくんだよな! 準備は出来てるぞ!」
ウルシアは人に対してはかなりフレンドリーで、積極的である。
目を輝かせているウルシアの右足はもう外に出たがっていた。だがシルテはその後ろに見えるミアに軽く会釈して、
「先生とはよろしかったですか?」
とウルシアに問い掛けた。
その問いでハッとなったウルシアはミアのところまで引き返す。
「ミア先生、探検してきてもいいか?」
「もちろん、あまり遠くには行かないようにね」
ミアの柔らかい口調には不思議なほどに抗う気が生まれてこない。
ウルシアはしっかりと約束をしてから、シルテと共に病室を後にした。
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