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「シルテ! どっから見るんだ? はやく外にいかないのか?」
そわそわしているウルシアの手をシルテは優しく握った。
「まずは院内を回りましょう、ここが分からないと何かと不便でしょう」
シルテの的確な判断にウルシアは小さく頷いた。本当に、感心するほど大人びている。
「なぁシルテ、君は僕と年が近いと聞いたんだが……?」
疑いの眼差しを向けると、シルテはクスッと笑った。
「私は14歳です。……多分ウルシアちゃん一緒なんじゃないですか?」
同い年とは思えない容姿に、ウルシアは言葉を無くしてしまった。自分がいかに未熟であるか思い知らされてしまう。
シルテは自分とは違う病気なのだろうか。そんな事を考え始める。
それと同時にウルシアは自分の積極性の無さを呪った。
友人を作ることに関しては誰もが愕くほどに積極的なのに、気持ちが絡むといつもこうだ。マイナスな方向へ動いてしまう。
「どうかしました?」
横を歩くウルシアの様子に気付き、シルテが問い掛ける。
「……シルテは何の病気なんだ」
俯き立ち止まったまま問い掛ける。心なしか、動かない左足が何時もよりさらに重く感じた。
「……私は病気じゃないんです。私の親がここに勤めているので、よく此処にきて幼い患者さんたちの遊び相手をしているんですよ」
シルテの簡潔な言葉に、ウルシアはきょとんとした。また自分の悪い癖で悪い方向に持っていってしまっていたが、彼女はそもそも障害者では無かったのだ。
ウルシアは健常者と共にいるのが好きだ。それが自分の為だとも思っている。何故なら、健常者なら気持ちに流される自分を止めてくれると信じているからだ。
詰まりそうだった息を吐き、ウルシアは再度前に歩き始めた。片足を引きずる彼女のために、シルテもゆっくりと歩く。
遊戯室、購買やトイレ、あらゆる場所に設置された自販機など一通り見てから、二人は病院の中央口を出た。
「ここが一番中庭に近いんです」
シルテの言うとおり、中庭はどこの入り口からでも行くことが出来るが中央口は出たらすぐ其処に中庭があって少し歩けば一休みできるベンチもあるほどの近道だった。
夏の暑さも遠のき、徐々に秋に変わるこの時期は、心地良い風が吹く。
木漏れ日の下、鳥の囀りを聞きながら歩いていると自分がまるで健常者のような錯覚にさえ陥るほどだ。
随分と広い中庭にはあらゆる年齢層の患者と、それに付き添う医師や親族がいる。此処にくる人達はみんな幸せそうな顔をしていて、思わずウルシアも笑みを零した。
だが其の中で見つけたとある人影に、ウルシアは一瞬だけ動きを止めた。
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