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「火事……?」
やっと状況を把握するが、足が動かない。
そのとき、頭上でピクトさんが俺の名前を叫んだ。
「三宅くん! 何やってるの! 早く逃げて!」
騒然とする非常口で、ピクトさんは必死に繰り返す。
逃げなければいけないことは十分に分かっていた。だが、友達を置いていく、という気持ちが行動を阻む。
「三宅くん!!」
「ピクトさん……」
逃げ惑う生徒たちが呆然と立ち尽くす俺を、半ば無意識に擦り抜けていく。
時々何をやっているんだ、と声が聞こえたが、今は何故か、意味を理解出来なかった。
上階から、何かが割れる音がする。
動けずにいると、ピクトさんがもう一度名前を呼んだ。
「……三宅くん、僕は大丈夫だよ。今度は本当に死んじゃうだけだから!」
――――あぁ、やっぱり。
諦めにも似た感情は、俺の中の蟠りを一気に溶かした。
ピクトさんは既に気付いていたのだ。自分が、何者であるのかを。
「もう僕は彷徨いも、こんなところに縛られたりもしないさ! 君と話をして、全部思い出せたからね! 三宅くんのおかげで、二度目の人生も楽しくすごせたよ! ありがとう!」
涙が零れる。反対に、ピクトさんはいつもの調子でわははと笑った。俺以外、誰一人としてその笑い声に気付いていなかった。
「ピ、ピクトさん! 俺も……! 楽しかっ……」
言い終える前に、教師に手を引かれる。
ピクトさんのいる誘導灯が、忽ち遠ざかってゆく。
「元気でね、さようなら!」
何百人ものざわめきの中で、彼の声は俺の耳にはっきりと届いた。
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