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古い校舎に予鈴が鳴り響き、辺りに静寂が満ち始める。
俺はクラスメイトが次々と着席するタイミングで席を離れ、教室を出た。
渡り廊下をスマートフォン片手に歩き、とある場所を目指す。
突き進むほどに人や照明は減り、自身の足音もよく聞こえるようになってくる。
数歩前進すると、目印が見えた。非常口には必ず設けてある、誘導灯だ。暗がりの中では眩しすぎるが、真下に座れば程好く視界を照らしてくれる。
ずっしりと腰を据えると、俺は購入したばかりのレモンティーに口をつけた。
騒音や人の目がないこの場所は、非常に心地が良い。
学校生活を送る中で怪談を耳にしたが、そんなことは気にもならない。
――――非科学的な話に関心がない俺にとって、怪談というものはむしろ好都合だ。真偽も分からない噂によって、これ程にも絶好の休憩場所が出来るのだから。
重要なことは、怪奇現象が起きるか起きないかではない。
人がいるか、いないかである――――。
「あ! 人だ!! こんにちはー!!」
夢心地になりかけていた俺の耳に、活力に満ち溢れた男の声が飛び込んでくる。
辺りを見回すが、誰もいない。校庭からの声か、空耳だろう。
再び目を閉じかけた瞬間、もう一度『おーい!』と言う声が暗がりに響いた。
「……ったく、誰だよ……」
言いつつも、探す気は更々無かった。
「僕だよ! こっち! こっち見て! ほら! 上!」
「上?」
言われたとおり振り仰ぐが、視界に入ってきたのは緑色に光る誘導灯だけだった。
強いて誰かいるとするなら、誘導灯に表示されている視覚記号の、ピクトグラムくらいだ。
「ごめん、どこか分かんないから寝ていい?」
「え!? さっき見たでしょ!? 誘導灯! 緑色の走ってる人!」
「……緑色の、走ってる人……」
“非常口付近で、男の独り言や、鼻歌が聞こえる”。
生徒の間で囁かれている噂を、改めて思い出す。
これって、もしかして――――。
「いや、こんなやかましい怪奇現象無いな」
「それがあるんだよなー! って、自分のこと怪奇現象って認めちゃった!」
「…………マジか」
普段から感情に乏しい俺だが、この時ばかりはさすがに表情が崩れた。
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