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とある男子 片山拓海
「大丈夫だよ父さん、心配ないって」
膝の上の丸くなった子猫を撫でながらスマホで話しているのは片山拓海
拓海は群馬県前橋から現在の神奈川県横浜市へ引っ越して来たばかりだ、元々は父親の仕事の異動で横浜へ引っ越して来る予定だったのだが、今は拓海一人で暮らしている。
異動に合わせて家も購入し、拓海も横浜の高校を合格して準備万端であったのだが、直前になって父親の異動がまさかの一年延期となってしまったのだ。
その為に父親は前橋に残り、拓海は一人で横浜に住むことになったのだった。
「むしろ父さんの方が心配だよ、ちゃんと掃除とか洗濯してる?」
拓海は前橋に居た頃から父親と二人暮らしだった事もあり家事全般をこなしていた。
拓海が6才の頃の事だった、当時まだ一歳になる弟を保育園に母親が迎えに行った帰り、交通事故に巻き込まれ二人とも帰らぬ人となっていた。
大きいショックに包まれながらも、二人だけで生きていかなければならず幼い拓海を抱えた父親の負担は計り知れなかった
父親は慣れない家事に追われながらも、残された拓海の為にと身を削るように働き家事をこなした。
拓海も悲しみにふさぎ込んでいたが父親は最後の家族、父親の疲れ切った様子に自分の後悔と悲しみよりも助けたいと言う気持ちが強くなっていった。
洗濯物を洗濯機にいれてスイッチを入れる、洗い終わった食器を片付ける等、最初は簡単な手伝いから自分に出来る事を始めた。
ほんの小さな手伝いだったかもしれない、しかしその拓海の気持ちが父親に伝わるには十分だった。
父親は一人で拓海を育てなければならないと言う義務感から無理をしていたが、拓海と二人で生きて行けばいいと気づくのだった。
それからは力を抜き、拓海も家事を少しずつ覚えて行った事もあり父親の負担は劇的に軽くなっていった。
「今だからわかるけど、父さん本当に家事とか苦手だったんだなってわかってるよ」
真面目でマメな性格からか料理、掃除、洗濯と家事全般をそつなくこなし、中学生になる頃には家事のほとんどは拓海に変わっていた故の心配だった。
「とにかくこっちは大丈夫だから、今はナナも居るしね」
そう言って膝の上の子猫の頭を撫でると、返事をするようにニャあんと鳴いてちょっと短めの尻尾をひゅるんと振った。
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