第三章 友の味

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店につき勢い良くドアを開けると満席のお客達に圧倒される。 カウンターの中では忙しく振る舞う健治の姿に麻依は慌ててエプロンを付けた。 『何だおまえら、何してるんだ?』 拍子抜けした顔をする健治を横目で流すと、麻依はお客のオーダーを聞き、気付くとレイまでもがグラスに水を注ぎ新規のお客に運んでいる。 『いらっしゃいませ。』 『ありがとうございました。』 その言葉を何度言っただろう。 まるで福徳の神に呪文を唱えてるみたいだ。 今日は休日で昼を過ぎるといつもに増して店はごった返す。 稼ぎ時だが一人で回すなど到底、無理な話だ。 『麻依、そこの白の大皿頼む。』 『なぁ、レイ悪いけどシェーカー振ってくれないか?司スペシャルをな。』 舌を出す健治に口パクで 『メニューじゃないだろ。』 と返すレイ。 それに応えるように健治も口だけ 『休みの日限定な。』 と二人頷いた。 “司-つかさ” アタシはその言葉に、胸の奥が親指、人差し指、中指と順を追って拳を握るように締め付けられていった。 『了解!でもこれ作ったら仕事行かなきゃ、悪い!』 何もなかったように振る舞うレイを見て強い人なんだと思った。 何もなかったように振る舞うその姿を見て、自分に負けずと前に進んでいる人なんだなと感じる。 だけど、そんな彼を見ていると辛くなってしまう。 笑っている姿を見れば見るほど悲しくなってしまう。 閉店間際、ガラリとする店内で後片付けをし健治はカウンターに座り売り上げを計算していた。 眉間に皺を寄せ、細め見るその姿に歳をとったんだと感じさせられてしまう。 アタシの為に、嫌アタシのせいで結婚もせずに今の今までずっと見守ってきてくれた。 …今度はお返しをしていかなければいけない。 そう思うがいつも迷惑ばかりかけてしまう。 そんな事を思っていると
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