第三章 友の味

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翌朝 目を覚ました麻依は、昨日の事をふっきるかのように大きく深呼吸をし、まだ暁時だと言うのに店の中央の扉を勢い良く開け、ベンチに腰をおろすとそんな空を静かに眺めた。 しばらくすると、ぼんやりした暗さに東の空から陽射しが見えはじめ思わず目を瞑る。 ほんのりと漂うこの潮の香り。 ふと海岸を眺めると、勢い良く走る犬とリードを引く男性が見えた。 ん?引っ張られてるみたい。 その光景に、クスッと笑った。 毎晩、眠れずにいたアタシは久々に熟睡することができた。 泣いたせいか、瞼が少し重く腫れぼったい。 カウンターに目をやると、飾ってあるかすみそうに手を伸ばした。 おはよう…そう優しく話し掛けながら。 そして水を注してやると、また同じ所に置き朝食の用意を始めた。 どんどん、バタッッ。 外からとんでもない物音が聞える。 ガタガタッッ。 何かいるのだろうか。 恐る恐るドアを開けると尻尾を振るジュリエットとその隣に健治が倒れてるではないか。 『こ、こいつ早いんだよ。砂浜に着いたら一気に走りだして、着いていくのに一苦労だよ。もう俺、駄目。』 バタッッ。 はぁはぁと息切れをし、再び倒れこむと息を吐いたり吸ったり呼吸を整えている。 『おまえ偉いな。いつもこうやってこいつと散歩してるのか?』 さきほど、ここから見た絵になるような光景とは健治達だったようだ。 『何か焦げてる匂いしないか?』 ジュリエットも匂いを嗅いでいるかのように鼻をクンクンさせている。 とたんに麻依はカウンターに向かい走り、慌ててかけていた火を止めた。 こんがり白身が焦げ付いたカリカリの目玉焼きと具合が悪そうなベーコンをお皿に盛り、横に三角切りにトーストされた食パンを並べると 『麻依スペシャル、焦げてるのは勘弁な。』 舌を出し健治の真似をした。 健治は昨夜、麻依が寝たのを確認すると内緒でマンションへ行き、嫌な顔をする雅樹を説得させた上でジュリエットを連れてきたのだった。 まさかとは思ったがジュリエットの背中に炙られたような茶色の模様が所々にあり、嗅ぐとほんのり焦げた匂いがした。 知らぬ顔をする雅樹には何も聞かず、家に連れて帰ると固くなった毛の部分をきれいにカットし、シャンプー迄もしてやっていたのだった。
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