第三章 友の味

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『ジュリエットおいで、お座り。』 尻尾をバタバタと振り喜ぶ全身を麻依は丁寧に撫でた。 そんな事があったとも知らずに…… 『ジュリエット、健治さんと同じ匂いがする。 いい香り。』 その言葉にはっとした健治はとっさにこう誤魔化した。 『昨日一緒にジュリエットちゃんとお風呂に入りました。俺には背中を流してくれる優しくて可愛くて愛敬があって、髪はストレートのロングで色っぽくて、唇が薄くすてきなすてきな嫁さんもいなから、一緒に入ったんだよな。』 早口で自分のタイプをずらり並べると一緒にしゃがみジュリエットをとっさに撫でた。 『今日、出勤日だけど休みなさい。気晴らしがてら出かけてこい。こいつは店で預かっとくから平気だ。』 ジュリエットの耳を両手で押さえ顔を近付けた。 『たまにはママもお出かけだ。おまえは俺と留守番、嫌店番だ。』 と笑い掛け、またジュリエットとじゃれ合っている。 『アタシには行くところなんてないわ。今日もきっと忙しいから手伝う。ここに居させて、お願い。』 頭を掻きながら困った顔をする健治は、曖昧に頷きながら時計を見た。 店内の掃除を始めると、カランカラン。 ドアに飾ってあるベルが鳴った。 『今日頼まれた分、ここ置いときます!毎度!!』 朝からテンションの高い八百屋の三郎(さぶろう)に、おまえかよ!と仏頂面をする健治。 『何っすか、その顔は。』 少し不機嫌そうにする三郎だったが健治の冷めるような眼差しに 『毎度、またお願いします。』 麻依にだけ笑いかけながら言い残し、帰っていった。 その様子に首をかしげなら変に思う麻依だったが店を掃除する。 カウンターを拭き、床がけをし、シンクを泡立てながら隅々まで磨く。 しばらくすると、バイクの音が近づき健治の行動が妙に慌ただしくなった。
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