第三章 友の味

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『もう、掃除はいい。顔は洗ってる。着替えは終わってるな、よし。』 指をさしながら一人ぶつぶつ点呼をするようにこちらを見ながら言っている。 そしてドアのベルが鳴ると同時に、にんまり笑顔する。 『おはよう。健じい、わりい!バイクが調子悪くて時間過ぎちゃったマジごめん。』 『忘れてるのかと思ったよ。今日は頼むな。』 レイが来るなり二人肩を組み内緒話をしている。 『バイクの調子ってエンジンか?時間があったら見てやるよ。 じゃ、コイツの乗り具合も見てきてくれないか?』 自分のバイクの鍵を渡し、麻依にはヘルメットを投げた。 『え?アタシも?』 戸惑っていると背中を押され外のガレージへと連れていかれた。 用意されていたかのように手入れされ黒光りするバイクを見るとレイは照れながら手を貸し、戸惑う麻依を後ろのシートに座らせた。  『姫、どうぞ…』 不意な行動に不思議そうな顔つきで伺う麻依に健治は 『ジュリエットちゃんご飯まだだったかな…。』 鼻の天辺を掻き逃げるように店に戻っていった。 真っ直ぐな海沿いの道をひたすら走る。 砂浜ではちらほら人達が自分の時間を過ごしているようだ。 二人は海の夏風に体中がべとついたが、何処までもひたすら海岸沿いを走り続けた。 『休憩しよっか。』 バイクを止め、缶コーヒーを買い麻依に渡すと 『あぁ駄目だ、俺デートじみた事なんか慣れてねぇ。ごめんな、本当は健じいに内緒で誘ってほしいって頼まれたんだけどさ、嘘つけないや… 調子が悪いあなたを元気付けてほしいって頼まれたんだ実は…でも俺言ったんだよ、調子が悪いのに連れ出すの?って。したら気分転換だとかなんたら… 風邪ひいてるのにごめんなさい、体調は平気なの?』 申し訳なさそうに問い掛ける彼に 『風邪?……あぁ。風邪…大丈夫よ。』 わざと咳払いをして誤魔化すのであった。 元気がない麻依に気晴らしをしてほしかった健治は、自身は店があるからと昨夜レイにお願いしていたのだ。 直接話せば雅樹を気にし、自分達に迷惑をかけたくないからと引きこもって出かけもしないだろうと、健治なりの気遣いであった。 『…え、似てる?俺と健じいが?昨日話し込んでたからうつったのかな?』 クスクス笑う麻依に、戸惑うレイ。 『俺の親父とおふくろと同級生で仲が良かったんだってさ。不思議な縁だよな。 あん時ジュリエットに出くわさなきゃ健じいと再会なんて出来なかった。 もちろんあなたに出会うことも、こうして出かけることもなかったんだよな…ジュリエットに感謝だな。』 彼の栗色の髪が、風になびき、ほのかに石けんの香りがした。 『もう怪我は平気なの?アタシあなたにちゃんと謝っていなかった。本当にごめんなさいレイくん。怪我までおわせてしまって。』 そうは言ってくれるものの思い返せば、ジュリエットのせいで怪我をさせてしまったのだ。 改めて頭を下げ謝った。
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