第三章 友の味

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『こんにちは初めまして、麻依と言います。 健治さんのお友達ですよね、代わりにアタシがお邪魔させてもらいました。 今日は日ざしが強くてすごく暑いですよ。』 窓を開けたとたんに、蝉の大合唱とぬるまゆい風が入ってきた。 『お花をいけてくるわね。ナースステーションで花瓶借りてくる。』 レイが何度も話す、後悔の意味を理解した。 ―後悔 その二文字が行ったり来たり頭に浮かぶ。 『なぁ親父、健じいに会いたいか?あの人は本当にいい人だよ。親父もいい友達もってるんだな。』 戻ろうとすると扉越しに話す彼の声が聞こえた。 いつもこうして一人で来て、いつもこうして一人で話し掛けているのだろうか。 考えただけでも胸の奥がわしづかみされたように痛くなった。 帰りのエレベーター前。 お節介は承知の上わざと明るく話し掛けた。 『アタシに出来る事があったら言ってね。』 と、ありふれた言葉だけど心の芯がそう揺れたから。 そしてエレベーターに乗ろうと一人のおじいさんがこちらに向かい手を挙げた。 『どうぞ、何階に行かれますか?』 尋ねると二回目でやっと、こう返事が返ってきたのだ。 『…地下三階にお願いします。』 と… 今にも消えてしまいそうな小さな小さな声で。 そして何気なく地下三階のボタンを押そうと… 利き手が止まる。 そこは最後に家族に触れた場所。 そんな暗く重い場所を指しているのだった。
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