第三章 友の味

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『今日はどこにいったんだ?』 振り返った顔がやけに、にやけている。 『ん、えっと…えっと秘密。』 なんて話せばいいかわからなくて、とっさに出た言葉に健治は身体をこちらに向けると 『たまには年下もいいだろう。』 厭らしい顔をし、またにやけている。 『もう…そんな顔で見ないでよ。なんだろう、彼といると隼人を思い出させてくれて、想像させてくれるの。 もし生きていたらバイクに乗っているのかな? もし生きていたら、こういう洋服とか着るのかな?って。』 もっとたくさんある。 もし生きていたら、あんな優しい笑顔を見せてくれるのかな? もし生きていたら、自分に負けずに強く生きているのかな? もし…もし……… だから初めて会った時もそんな気がしなくて違和感さえも感じなかったのだろう。 自然に涙が頬を伝う。 その姿に気付くと健治は近寄り優しく肩を抱いてくれた。 『そうか、わかったよ。なぁ、司スペシャル呑むか?レイが作ってくれてな。多分レシピはあってると思うんだけど。 何せ初めて挑戦するからな、友の味に。』 ―友の味 カウンターに入るとお酒のビンを並べ冷蔵庫に手を伸ばしながら、手際よく準備をする。 ―司 その言葉にまた胸がどきんと高鳴る。 話した方がいいのだろうか。 そんな事を考えていると何も知らない健治は 『俺ら、レイの母親と父親の司と同級生だった。 だけど母親の美奈は、レイを生んで直ぐに死んだんだ。元々身体が弱かったせいもあって自分の命と引き替えにな。 だから司があいつを一人で今まで育ててきたんだ。』 どこか淋しそうな声と共に、レモンの香りがパァッと広がった。 『司に直接作ってもらったことはないがこれがスペシャルだ。』 潤んだ瞳で見つめるとカクテルをカウンターに置き仕上げに、ミントの葉を手のひらで叩き香りを出し飾る。その透き通るような涼しげな色に、香りに、思わず顔を寄せ嗅覚で楽しむ。 『いい香り、ん、美味しい。すごく美味しい。でも何で直接作ってもらったことないの?』 緊張感が解れとっさにとんでもない言葉を発してしまった。 すると健治はカウンターに回り自分の分のグラスを持つと麻依の横に座った。 そして目を瞑り寝ていたジュリエットまでも仲間に入れてと言わんばかりに起き上がり尻尾を振ると二人の丁度、下辺りに伏せた。 『何でって、会ってないからさ。連絡したけど繋がらないしどこにいるかもわからないんだ。』 グラスを揺らし、カクテルを見つめている。 『そう…会えるといいね。』 それ以上何も言えない。 ごまかしてしまうときっとボロがでてしまうから。 伝えたい、今日の出来事を。 だけどアタシの口からは伝えることなど出来ない。 彼との約束だから…
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