プロローグ

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柚子は、女の子のものなのに。少年の名前を聞いた時、違和感しかなかった。だから正直に口から出た本音は、瞬く間に笑い誘う。先生が叱るけれど、誰も本気にしない。すると転校生の顔が、まるで熟した柿のように真っ赤に染まり、こちらを睨み込んだ。その垂れた目から放たれる、敵意剥き出しの表情から、すぐに悟った。駄目だ。この少年は、すぐにでも排除しなければならないと。そして私は、最も幼稚で浅はかな行動に出た。  単刀直入に言おう。いじめである。愚かで情けない人間である私は、その次の日から、城田柚を攻撃した。今思い出しても、当時の自分を殴ってやりたくなり、ひたすら羞恥心と後悔の念に苛まれる。  私は、いつも思考回路が狂っている。この判断が正しいのかどうか、第三者に委ねてみないと分からないのだ。それは10年経った今も同じ。成長なんて全然していない。人生の分かれ道となる重要な決断であるにも関わらず、もう後戻りは出来なかった。 「よし、行くか‼」  重い引き戸を開け、久し振りの我が家へと踏み入れる。大学に進学してから数えると、何年振りだろうか。帰省もせずに逃げていたけれど、ここでけじめをつけなければならない。
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