episode5

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「それで、最後に脅したんだ。もしも俺を抜けさせないと、お前が男をすきだって事を世間にばらすってさ」 「それで……どうなったの?」 「金を渡された。手のひらを返したように。世間にはどうかばらさないでと。事務所を辞めるのと、交換条件に。それで……まあ、今に至るかな」  最後まで話を聞いても、分からない事がある。聞かずにはいられない。 「じゃあ、どうして……」 どうして。 「ずっと髪を切らずに、アイドルの頃のままだったの?」 「それは……」  もう分かるでしょ、と泣き笑いのような顔をされる。赤い目元をそっと拭ってあげた。 「何もかも捨てた時、俺にはもう、これしか残っていなかったんだ」  これまで10年間、ずっと見た目だけを気にしてきた。すると中身のない空洞の像へと、体が石化していった。 「綺麗でいないと、誰も愛してくれない。ずっと、そう思ってた」 「うん」 「でも不思議だな。髪を切った時、……全然苦しくなかった。なんだ、俺が背負ってきたものは、こんなものかって」  無理して笑う彼を、そっと抱きしめる。 「佐和さんは、今も昔も綺麗だよ。きっと奏多さんたちや事務所の人も、佐和さんの心が綺麗だから、手放したくないって思ったんだよ」  そこでLyricの曲を思い出す。 君に出会い、君を愛し、そして手放した。 本当に、Ly-ricの人たちは、嘘つきだろうか。  10年という長い間、佐和さんを縛ってしまったからこそ、彼を解放してくれた。金を渡されたとは、つまり自由を与えたとも言える。  都合の良い第三者目線の答えだけれど。真実を知るすべがないのなら、少しでもハッピーエンドで収めたい。  温かい風が、窓の隙間から流れてくる。外には美しい三日月が、照り輝いていた。
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