episode6

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 手伝いが終わったのは、午後5時50分頃で、閉館まであと10分しかなかった。明日から特別展示が始まるけれど、今日のお礼にということで、無料で見ても良い事になった。花鳥画の前にじっと立ち、佐和さんに握られた手をぎゅっと掴む。  金色の粛々とした空白に、淡くて白い花が一面に広がっている。けれどその1つは、こじんまりとした若草色の鳥が背中を向け、枝の上に止まっていた。細い枝は今にも折れそうで、そっと上に伸びている。細やかな色使いと、ふっくらとしたメジロが愛らしく、見る人を和ませる。その隣では、色鮮やかな牡丹の花が1輪咲いていた。 「……今日、来て良かった」  さらに隣の椿の絵を見る前に、彼の呟いた一言に耳を傾ける。 「みつきの好きな物を、こうして一緒に見られたし」 「また来ようよ」 「じゃあその時は、俺の恋人になってくれる?」  首筋から徐々に熱が上がり、そのまま頭の芯から湯気が出そうになる。 「もちろん」  つい声が上ずってしまい、静寂の空間に響く。震える上唇を僅かにあげた時である。目を閉じたタイミングで、チリン、と鈴のような音がなった。それが私のスマホの着信音だと気づき、思わず手に取る。 「あっ、バイト受かってた」 「ちょっと、みつきさん。今良い所なのに」 「嬉しい。これで少しは贅沢できる」  軽く飛び跳ねてから、スマホを抱きしめる。その時、スタッフの女性から「そろそろ閉館なので」と呼びかけが入る。まだ2枚しか見ていないけれど、充分だ。もう一度佐和さんと来られるのだから。ぐるりと一周みまわしてから、佐和さんを見る。まるで展示の一部へと同化したように固まっていた。一点に集中し、金色の絵画へと見入っている。放っておけば、そのまま絵の中に取り込まれてしまいそうだ。 「佐和さん」  彼はすぐに振り返る。美術館から、外へと出て行く。 「行こう」  黒く漆のように光る髪は、風でなびくと小鳥の羽のようにふわりと舞う。もう甘い香りはしないけれど、花のように美しい。美術館を出ると、夕暮れの空に、うっすらと月の影が顔を出していた。 -高橋光希サイド end
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