episode1

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でも、私自身も充分に理解しているつもりだった。まだ可愛くて、幼かった私の手を、いつも周りの人たちは握り返してくれた。けれど今は、伸ばすだけで誰かが助けてくれる世界ではない。もう私は可愛くない。成長期を迎え、理想とはかけ離れた大人へと向って行く。自慢だった大きな瞳は二重から一重になり、見る者に鋭さと威圧感を与える。唇も血色が悪く、丸いおでこは肌荒れでボコボコとしていた。可愛くない私なんて、きっと誰も好きになってはくれない。そうやって偏屈に育ったのは、きっとこれまでの天罰が降りかかったからであろう。勝手に天狗になって、女王様気分でクラスに君臨し、そして無垢で罪のない少年をいじめた。神様から天罰が下されても、なんらおかしなことはない。第二の壁は、今の私。憐れな姿になれ果てた、今の人生である。 「……別に、賛成して欲しいとか言ってないし」 「はあ。またそうやって不貞腐れて。……お金はどうするの。学費が必要でしょ?」 「自分で出すよ。バイト代が貯まってるし、それに……」  それに、それに、それに。……これ以上続かなかった。本当は全然貯まってなんかいない。就活を機に、前のバイトを辞めていたし、説明会やインターンへの交通費が重なって、貯金も少ししかなかった。けれど、親に頭を下げて借りるのは、どうしても気が引けて出来なかった。ここに来たのは、お金をねだりに来たのではない。ただ、宣言しに来たのである。 「とにかく、自分でなんとかするから」 「バイトって……夜の仕事じゃないでしょうね?」 「バカな事言わないでよ。……母さんには関係ないでしょ」  つい悪態をついてしまい、長いため息がこぼれる。それからぽつりと呟かれた。 「小さい頃は、もう少し可愛げがあったのに」  それが一番、精神的に堪える一言だった。徐々に口先が尖って行き、手に力が入る。
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