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「あなたのこと、見ていてもいいですか?」
風に乗って聞こえた彼女の声は、あまりにも可憐な声で、俺の心臓を跳ね上がらせた。
まさか話しかけられるなどと、微塵も思っていなかった俺はどもりながら応える。
「え…えっと、なんでですか?」
「そりゃあ、カッコいいと思ったからですよ」
弾けるような笑顔で彼女は言う。
「それ」
そして俺の仕事着を指し示す。
「は、はぁ………」
宙釣りになっている俺が身じろぎして自分の姿を確かめると、ハーネスがガチャガチャと鳴った。
「あっ、でもお邪魔になるようだったら退散します」
「いえ!全然そんなことないです!」
俺は思わず引き止めていた。そうしないと、すごく勿体ないような気がしたからだ。
それから俺と彼女は、地上六十メートルの場所で会話をした。俺は作業をしながらで、主に俺の仕事について彼女が聞いていたが、中々楽しかった。
彼女はゆったりとした暖色のワンピースを着ていて、リボン状の腰紐が風にあおられると蝶のようにはためいた。
「それじゃ、お仕事頑張ってくださいね」
しばらく話した後、彼女はそう言って部屋の中へ去って行った。
俺は興奮冷めやらぬといった心持ちで、彼女との会話の余韻に浸っていた。
そして、真面目に仕事に取りかかった。
俺が毎日彼女の家を見張ることを決めたのは、その日の晩だった。
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