1. 降ってきたおくりもの

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「……誰?」 見つかりたくなくて、こそこそと早紀ちゃんの後ろに隠れる。 そんなわたしと裏腹に、早紀ちゃんはフレンドリーに話しかけた。 「あたし、A組の矢沢早紀。実は高校では吹奏楽部に入りたくて、気になって来ちゃった。名前は?」 「B組の、椎名(しいな)千尋(ちひろ)。吹奏楽部」 「えっ、もう入部届出したの? 早っ」 「まあ、一応」 彼――椎名くんは、無愛想だし話し方もそっけないけれど、聞かれたことにはきちんと答えている。 それにしても、一年生でここまで上手だとは。通っていた中学が、吹奏楽部の強豪校だったのかもしれない。 そんなことを考えていると、ふと椎名くんと目が合ってしまった。 彼はじーっとこっちを凝視すると、つかつかと歩みよってきた。 「なずなの知り合い?」 「違う違う違う!」 必死になって首を横に振る。全く知らない‼︎ はらはらしていると、椎名くんはなんとわたしの腕をつかんだ。 突然のことに、全身がこわばる。 光のやどった強いひとみは、わたしを逃がしてくれなかった。 「お前、三中(さんちゅう)のクラリネットだろ」 「…………え」 世界がまっさかさまに反転したような気分になった。 どうして。どうして、知っているのだろう。 「俺、去年の夏のコンクールのとき……」 「やめて!」 思わず、腕を振り払う。その先は聞きたくなかった。 ドクン、ドクンと心臓が鳴ってうるさい。じんわりと、嫌な汗がひたいににじんでくる。 助け舟のように、昼休み終了十分前を知らせるチャイムが流れた。 「早紀ちゃん、戻ろう」 「でも、いいの?」 「いいの」 校舎の中に戻ろうと、ドアノブに手をかける。 椎名くんの視線が、まだわたしにそそがれていることが、顔を見なくてもわかった。 「ごめん。……せめて、名前だけ聞いていい?」 「宮原なずな。A組」 目を合わせないまま、小さくつぶやく。語尾が少し、震えてしまった。
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