1. 降ってきたおくりもの

4/4
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/104ページ
早紀ちゃんはわたしと椎名くんを交互に見ると、「先行くね」とわたしの肩を軽く叩いて屋上を出た。 屋上に、わたしと椎名くんだけが残される。 今すぐここから逃げ出したい。 「お前、もう吹奏楽やらないの?」 「うん。そのつもり」 「入ればいいのに」 「もう、できるわけないよ」 「俺はお前に――宮原に、入ってほしいけど」 その言葉に揺さぶられてしまい、椎名くんと正面から向き直った。 真剣な表情。嘘でも、冗談でもなさそう。 ひとみの中の光も、トロンボーンの金色も、空の青さも。直視するのがつらくてうつむく。 椎名くんはふうと息をはくと、楽器ケースを立てかけてあるフェンスのほうに行ってしまった。 「――椎名くんは、どうしてこの学校の吹奏楽部を選んだの?」 最後にどうしても気になることを、声を張ってたずねた。 「あさっての」 椎名くんも、声を大きくして答えてくれる。 「あさっての新入生歓迎会。そこで、吹奏楽部の演奏を聴けばわかる」 「……ありがとう」 お礼を伝えてから、今度こそ中に入ってドアを閉める。 もう関わりたくないはずなのに、気になっている自分がいることがくやしい。 吹奏楽部のことも、あの男子……椎名くんのことも。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!