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早紀ちゃんはわたしと椎名くんを交互に見ると、「先行くね」とわたしの肩を軽く叩いて屋上を出た。
屋上に、わたしと椎名くんだけが残される。
今すぐここから逃げ出したい。
「お前、もう吹奏楽やらないの?」
「うん。そのつもり」
「入ればいいのに」
「もう、できるわけないよ」
「俺はお前に――宮原に、入ってほしいけど」
その言葉に揺さぶられてしまい、椎名くんと正面から向き直った。
真剣な表情。嘘でも、冗談でもなさそう。
ひとみの中の光も、トロンボーンの金色も、空の青さも。直視するのがつらくてうつむく。
椎名くんはふうと息をはくと、楽器ケースを立てかけてあるフェンスのほうに行ってしまった。
「――椎名くんは、どうしてこの学校の吹奏楽部を選んだの?」
最後にどうしても気になることを、声を張ってたずねた。
「あさっての」
椎名くんも、声を大きくして答えてくれる。
「あさっての新入生歓迎会。そこで、吹奏楽部の演奏を聴けばわかる」
「……ありがとう」
お礼を伝えてから、今度こそ中に入ってドアを閉める。
もう関わりたくないはずなのに、気になっている自分がいることがくやしい。
吹奏楽部のことも、あの男子……椎名くんのことも。
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