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夏の思い出
「それはね。思い出を持ち帰ってもらうためよ」
「思い出? こんなただのゴミが?」
「そうよ」
私は花火の残りカスを見せて彼に言った。
「これだって、誰かがここでひとときを楽しんだ証よ。捨てて行くってことは、思い出まで投げてしまうことと一緒。ちゃんと持ち帰って家で処分することで、はじめてちゃんとした思い出になるのよ」
「……なんだかよくわかんない」
「もう少し経てば、キミにもわかるよ」
「……」
優くんは怪訝な顔をしている。でも、もう少し大人になればわかるだろう。
しばらくすると作業も終わり、私たちは他愛もない会話をしながら家路についた。
私たちの乗ったバスは、石狩市庁舎の前を通って札幌市内に入り、石狩街道を南下していた。その辺りから、優くんは急に言葉少なになった。
「どうしたの? 具合でも悪いの?」
「ううん」
彼は首を横に振った。やがて降りる停留所が近づいてきた。
「それじゃあ、またね」
手を振ろうとする私に、彼は、
「お姉さん、一緒に降りて」
あ、え……?
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