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どういうわけだか私も一緒に降りてしまった。
「ちょっと、どういうこと?」
「だって、思い出は持ち帰るって言ったじゃない」
えーっ、と思った。この歳にして意外に積極的だ。だけれど……。
「お、落ちつこ?」
「落ちついてますよ」
このままでは持ち帰られてしまう。私はこの場を切り抜けなければならない。
「じ、じゃあさ、こうしようか」
私はポケットからメモ用紙を取り出し、自分のメールアドレスを書いて渡した。
「半年経って、キミの気持ちが変わらないなら連絡してきて。もし変わったなら、それはそのまま処分して。約束だよ」
若い子の気持ちはけっこう移ろうものだ。半年も経てば私のことなど忘れるだろう。
私は後続のバスで、彼に手を振って帰路についた。恐らく連絡は来ないだろう。それでいいのだ。
思い出は、たまに懐かしく思い出すから良い。そう自分に言い聞かせて。
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