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「クラスが一緒で、入学したときから気が合ったんです。わたしなんかが、おかしいかもしれないですけど」
淡々と答えながら、なぜだか自分のほうが誰かに向かっていいわけをしている気分になる。夏月に釣り合うはずもない自分が彼女の隣にいることへのいいわけを、もしかしたらわたしは自分の胸の中に探し続けているのかもしれない。
「おかしいことなんて何もないよ」
「……彼氏だったら今はいませんよ、夏月」
先回りして言ったのは、自分がこれ以上傷つきたくないからだと知っていた。
「いや、そういう意味じゃないんだけど……」
国道の赤信号で、立ち止まる。蝉の声が大きくなったように感じた。
この信号が青に変わったら、ほどなくして新館に着いてしまう。そう思うとほんのり淋しい気がした。
「えっと、いやまあ、ファンなんだ。彼女の」
タカハシさんは歯切れ悪く説明した。
そのまま無言で、過ぎ去る車の群れをふたりで見送った。
夏月が気になるならもう少し近くの席に座ればいいものを、タカハシさんはいつも授業開始ぎりぎりに教室に入ってきては、わたしたちより遠くの席を選んで座っていた。
その姿を見かけるたび、わたしはどこか苛立たしいような気持ちになった。
「ねえ、あの人、夏月のファンなんだって。聴講生の社会人だって」
もう、伝えてしまってもいいのだろう。隣で講義を受ける夏月の腕をペンの柄で突いてわたしはささやいた。自分にはその権利があると思った。
「んー? 誰?」
モテることに慣れきっている上に、午後いちばんの眠気に襲われている彼女は、おざなりにわたしの指差す方向に目をやると、何の感情も浮かんでいない顔で
「それよりさあ、帰りにクレープ食べたくない?」
とつぶやいた。
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