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タカハシさんとふたりで新館まで歩いた日から一週間が経っていた。
本館の学食で影のようにたたずむ彼を見つけ、わたしは考えるよりも早く彼に近づいていった。速足で歩く自分を、自分の心が驚いている。
「ここ、空いてます?」
学食名物のインドカレーランチを前にナンをちぎっていた彼は顔を上げた。淡いブルーのレンズの奥の両目を見開いている。
構わずに彼の向かいの空席に鞄を置き、財布だけ持って同じインドカレーランチのトレイを手に戻ってくると、彼はそのまま食事を続けていた。
「夏月が好きなら、話しかければいいじゃないですか」
ナンをちぎりカレーにディップしながら話しかける。なんだか不必要にきつい口調になってしまった。
「たった1ヶ月しかないんでしょう? 時間がもったいないじゃないですか」
これではまるで焼きもちを焼いているみたいだ。もうひとりの自分が冷ややかに見ている気がした。
「あはは」
タカハシさんは心からおかしそうな笑いを浮かべた。
「真幌ちゃんっておもしろいね」
ばかにされている。そう思うのに、わたしはまたしても頬に血が集まってくるのを感じた。
「別におもしろくなんか……」
「じゃあ、真幌ちゃんのことを聞かせて。専攻は何? 趣味は? 好きな食べ物は?」
「えっ」
突然の質問の連投に不意を突かれ、わたしは手を止めて、眼鏡の奥の澄んだ目を見つめ返す。こんなに邪気のない大人の目を始めて見た、と思った。
「えっと……ゼミは来年からですけど、無難にシェイクスピアとかそのあたりを考えてて」
「へえ」
「趣味は、星を見ることです」
「星?」
タカハシさんは意外そうな顔をしてわたしを見た。
「はい。天体観測って呼べるようなものじゃなくて、ただ肉眼で見るだけですけど。夏月ともそれで意気投合して」
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