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わたしは構いませんが、でもどうせなら、夏月のいるときに3人で行けばいいのでは。
そう提案しても、タカハシさんは「いや、真幌ちゃんさえ大丈夫ならすぐにでも」と聞き入れなかった。いい歳して、相当の奥手のようだ。社会人のくせに。
でも、そのおかげで今、こうして彼とふたりアイスをかじっている。
大学を出ていつもの電車に乗り、最寄駅で降りずに10分ほど乗り続けると、巨大ショッピングモールの名を冠した駅に着く。
遠くもないし、バスを使うわけでもない。近隣の学生や家族連れが多く集まり、治安も悪くない。たまの気分転換に訪れる、大切なスポットだ。自分が自分の形におさまっていることを確認するための。
夏月以外の誰かと来るのは初めてのことだった。
「知らなかったなあ。アイス事体、何年も食べてなかったしなあ」
モールのグルメエリアにあるサーティーワンアイスクリームで、彼は少年のような笑顔でしみじみと言った。やっぱりどこか外国語に聞こえるイントネーションで。
ピンクの小ぶりな丸椅子が彼の体を実際以上に大きく見せていて、女子高生や親子連れのお客の中で完全なる異分子だった。
どんなお仕事なんですか。さらにたずねようとして、はっとした。
ちょっとレトロなロゴの印刷されたポロシャツの二の腕に隆起する、美しい筋肉に。
もしかして、ガテン系なのかな。早くに社会へ出て、ひと息つく間もないままここまで走り抜けてきて、本当に青春を取り返したいのかもしれない。
彼の筋肉からそこまで想像をめぐらせると、それ以上プライベートな質問を重ねるのがためらわれて、わたしはしばしアイスに専念した。礼儀としての無関心を貫く。
がっしりした体つきの彼が持ったアイスは、やけに小さく見えた。
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