太陽と月のあいだで

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「わ、ほんとだ。アイライン入ってる」 「美容雑誌というものを買ってみたの」  ショッピングモールで過ごした土曜日のことを甘く胸に蘇らせながら、わたしはパストラミサンドイッチを咀嚼する。  一緒にチョコミントアイスを食べたあの日、名残惜しく別れて帰るその足で、わたしは書店に寄り、美容雑誌を買い求めた。  彼の目に、もっと魅力的に映りたい。そう思うのは必然な気がした。  たとえ、その瞳が夏月しか映していなくても。 「真幌は化粧とか興味ないのかと思ってたよ」  見事な縦ロールを揺らして夏月は微笑む。ゴージャスな髪型も、彼女だと全然やりすぎ感がない。 「ね、あたしんち、全然使ってないコスメがいっぱいあるの。持ってこよっか?」 「うそ、いいの? ほしいほしい」 「ちょっとすみません」  突然男性の声がして、わたしたちは同時に振り返った。最初に目に飛びこんできたのは、彼の着ているTシャツの原色の緑色だった。  ひょろりと背の高い、真面目そうな男子。何かの授業で見たことがある。たしか文化人類学だ。 「笠原さん」  男の人にしてはやや高めの、少し鼻にかかったような声が親友の名を呼んだ。 「え、はい」 「今いいですか」  あ、既視感。  これは、わたしが邪魔なパターンだ。緑Tシャツの男子は、今にも口から熱情をこぼしてしまいそうな顔をしている。  パストラミサンドイッチの残りを口に押しこみ、急いで咀嚼する。トレイを持ち、戸惑う夏月を残して席を離れながら、これはタカハシさんに報告すべき案件だろうかと考えた。
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