太陽と月のあいだで

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 夏月の旅行土産は、ドバイのチョコレートだった。 「すごいね、中東かあ」 「暑いだけだよ、なんか空気もざらざらして砂っぽいし。ほんとにひたすらホテルの中で過ごすだけ。プールだけはちょっとすごかったかな」  ミルクティーの氷をストローでからんといわせながら夏月は微笑み、世界一高いビルに登った話をしてくれる。パーマのかかった栗色の髪が学食のテーブルの上で毛先を広げている。 「石垣島だってうらやましいよ。真幌にしては焼けたね」 「うーん、毎年同じ別荘に行くだけだから代わり映えしないよ」  わたしたちいるテーブルと隣席との間を擦り抜けながら、誰もが夏月に視線を注ぐ。ある者は遠慮がちに、ある者は好奇心を隠しもせず。  彼女は学内の有名人なのだ。  お昼の間は忘れていたその人は、午後の法学の授業にも現れた。やっぱり窓側のいちばん後ろの席で、テキストに見入っている。眼鏡のフレームに前髪がさらりと落ちて、微妙な陰影を作りだしている。  海のようでも砂漠のようでもある彼には、印象を固定しきれない得体の知れなさがあった。  いつも後方の席に座って教室を見渡すことが多いので、同じ授業をとっている人についてはだいたい把握している。眠気覚ましも兼ねて、ついつい人間観察してしまうのだ。これももしかしたら、あまり他人に言わない方がいい(たぐい)の習慣かもしれないけれど。  ──後期から編入して、たまたま授業がかぶったのかな。  夏月にささやこうと隣を見たら、ペンを握ったままうとうとしていた。午後いちばんの授業では、いつもこうだ。  その端整な横顔に、いつだって見惚れそうになる。彼女を包む空気だけがまろやかで優しいもののように感じられる。  もう一度、こっそりあの人を振り返ってみる。  どきりとした。  彼も、まっすぐにこちらを見ていた。
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