太陽と月のあいだで

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 わたしたちの通う私立星南(せいなん)学園大学は良家の子女が多く在籍することで有名だけれど、笠原(かさはら)夏月はその中でも別格の存在だった。  なんと言っても、宇宙飛行士遺児なのだ。  今からきっかり20年前、宇宙飛行士だった彼女の父親が乗りこんだ有人宇宙船は、打ち上げに失敗した。ロケットブースターが異常を起こしたのだ。  全世界が青ざめてテレビに貼りつく中、彼はロシア人の乗組員と共に宇宙の藻屑となった。  妻と、生まれたばかりの小さな女の子を遺して。  世界中のメディアが、こぞって遺族を追いかけ回した。  悲嘆に暮れる姿を写真に撮りたがり、夫との美しい思い出を聞きだそうとし、莫大な保険金の使い道を知りたがった。  乳児を抱えてただでさえ育児ノイローゼ気味だった夏月の母親は日に日に追い詰められ、とうとう睡眠薬をオーバードーズして亡くなってしまった。  そんなざっくりとした生い立ちを、夏月はあっけらかんと話してくれた。  大学に入学してすぐに仲良くなった彼女がなぜ有名人なのか、なぜ廊下や教室で好奇の目を向けられるのか、世事(せじ)に疎いわたしは無知ゆえに質問攻めにしてしまったのだ。今思いだしても顔が熱くなる。 「他人の話をかき集めただけだから、あたし自身よく知らないんだけどねー。赤ん坊の頃のことだもん」  両親亡き後、遺産を受け継いだ研究者である叔父夫妻に育てられたという夏月には、屈託というものがなかった。  天衣無縫。まさにそんな形容がふさわしい、明るく純真なわたしの女友達。男女問わず誰からも好かれ、人を疑うことを知らない。  メディアが期待した悲壮感なんて、かけらも持ち合わせていない。
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