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夕方前にちらつき始めた雪は、会社を出るころには吹雪になっていた。
降り始めが遅かったことが幸いして、車が動かなくなるほど積もっているわけではない。
ただ、家の駐車場に車を止めるには雪かきが必要だろう。
それに、今日雪かきをしても、この勢いなら明日の朝再度雪かきが必要になるに違いない。
飛雄は、慎重に車を運転しながらため息をついた。
「明日休みになりゃいいんだけど、ウチの社長がそんなん許すわけないしなあ」
車が使えなければ、カンジキでもスキーでも履いてこい。
その位の事をあの社長なら言いかねない。
願わくば、明日の出勤時間までに除雪車が道路の雪をのけておいてくれますように。
街灯のない山道だ。
ギアを2に入れて、前の車が通ったわだちに沿って車を走らせる。
車のライトに雪が張り付き、前方を照らす光を遮る。
おかげでほとんど前が見えない。
わだちがなければ、立ち往生していたころだろう。
飛雄に仕事を押し付けて先に帰った先輩たちの顔が浮かぶ。
彼らが先に帰ったおかげで、飛雄は踏みしめられた道を通ることができる。
そう考えれば、先ほどまで恨みに思っていた彼等に感謝の念が浮かぶ。
会社から家に帰るこの山道は、基本下り坂である。
なので、滑らないようにという一点だけに気を付け、飛雄は車を走らせる。
暗い夜。
真っ黒な視界の前でちらつく雪が、遠近感を狂わせる。
飛雄は、努めて目の前だけに集中するようにした。
先輩たちは、みんな同じわだちの上を走ったのだろう。
多少のブレはあるものの、基本的に新雪の上のわだちは二筋だけだった。
飛雄も先輩たちに倣い、わだちを追って車を走らせる。
ライトに照らされたわだちに沿って。
まっすぐに。
まっすぐに。
まっすぐに。
飛雄は車を走らせ、先輩たちが通ったわだちに導かれるままに。
ガードレールの外へと飛び出した。
この現場での5人目の死者である。
誰もいなくなった道路に、雪で覆われたライトがぼんやりと光る。
雪の勢いは増すばかりである。
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