熱烈!勧誘

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放課後、クラスの奴らは部活やら委員会やらでみんな忙しいらしく「凩どうする?」「うちの部活見に来る?」などと誘われたが今日はいいやと断って1人ぶらっと1階の廊下まで来た。 転校して2日目、昨日は荷解きと色々疲れて寝たけど今日は元気なので校内探険しようと思ってたのだ。 それを言うと誰かが気を遣って部活とか休んで案内すると言い出しそうだったので黙って1人になったはいいが、さて。 「見取り図とかあればいいんだけどな……地道に歩くか」 行ったことがあるのは大体覚えた、1階だと教室はなく、学食や購買部や職員室、保健室とかあったり別棟にある体育館へ続く廊下があったりなどだ。 ええと、1年の教室は2階、2年は3階で、3年は4階なんだっけか。年が経つごとに上の階になるの階段登るの大変そうだななんて思いながら1階を歩いてれば、前から見たことがある男が。 「あ」 「あ……昨日の……!」 幸薄そうな顔が驚きに変わり、辺りを見渡してから昨日食堂でぶつかってきた男、名前なんだっけな忘れたかも、が寄ってきた。 「昨日はその、すみませんでした」 「いやいいよ、あと多分、同い年じゃないすかね。俺、1年2組だし」 「隣のクラスなんだ。あ、オレ、1組の岡、岡智治」 「岡ね、俺は凩雅也。よろしく」 「よ、よろしく……隣のクラスなのに会ったことないね、まあまだ4月だし、同じクラスくらいしかきちんとわからないよね」 昨日転校してきたから知らなくても無理ないけどなあと思いつつ、「そっすね」と頷けば岡は「凩は」ともう一度辺りを見渡す。 「1人、なんだ?」 「ん、ちょっと校内探険っての、しようかなって。まだわからないし見て覚えようかと。つか、そう言う岡も1人じゃん」 「あ、うん……やっと撒い、えっと1人になった感じ、かな」 「そなんすね」 何かから逃げてきたらしい、道理でおどおどしてるつうか、さっきからキョロキョロしてるなって感じだ。 何をそんなに怖がってるんだと思って何か言おうかと開いた口は、「ちょっとそこの1年!」と言う高めの声に閉じることになる。 声の方を振り向けば、小柄で何やら化粧までしてる女子のような3人組が。 え、女子!? と下を見たらスラックスだったのでやっぱり男子校だったのかと幻滅した。 ん、今そこの1年って言ったか? 俺か? 「ちょっと顔貸しなよね!」 「1年? 俺、っすかね」 「え!?」 手を上げて首を傾げれば、小柄トリオは「誰……?」「平凡しか見てなかった」「ちょっとタイプかも」と小声で話し始めた、タイプとは。 「え、や、その……そっちの1年に声を掛けた、んだけど……」 「そなんすね、岡、先輩たち? が呼んでるけど」 「え、や、オレ、部活やってないし、仲良い先輩居ないんで人違いです!」 「はあ!? あんた、岡智治でしょ、諏訪って転校生の同室の! 良いからちょっと来なよ!」 「岡智治ですけど、何の用なんですか! こ、ここでじゃダメですか!」 と俺の背中に隠れ始めた岡、完全に壁にされてしまったなあと思いつつ岡に用があるらしいトリオに「あの」と声を掛ける。 「岡、多分具合悪いと思うんで、怒ることがあるなら今日はやめといてやって貰えません? 何か昨日も倒れてたし」 「え、そうなの……?」 「先輩たちも、具合悪い時に怒られたら辛くないすか?」 「辛いかも……うん、辛い……」 「そっすよね。ちなみに岡は何したんすか? 怒鳴り声じゃなくても事情だけならほら、聞けると思うんで、先輩たちも話すとちょっとは落ち着くでしょ」 「え、えっとね」 岡に壁にされつつ威勢が良かった小柄トリオを宥めると、3人は顔を見合わせて「あのね」と話し始めた。 「ぼくたち、その……生徒会役員の親衛隊の代表なんだけど」 「親衛隊って何すか?」 「え? あ、君、外部入学? えっと、ファンクラブって言うかな、そう言う感じ」 「ファンクラブ。そっか、生徒会の人ってアイドルみたいとか聞きました、ファンクラブも居るんすね、あ、話折ってすみません」 「いいよ。えっとね、それで親衛隊として注意したかったんだ」 話をまとめると、こうだ。 どうやら岡の友達の転校生くんが、先輩たちの推し生徒会にべたべた近付くことでヘイトを買ってしまうので、出来れば馴れ馴れしくして欲しくない。 岡は転校生くんと友達なんだから言ってやって欲しい。 あと転校生くんと一緒になって推しに近付く岡にもヘイトが溜まりそう、と言うことらしい。 なるほど、またローカルルールか。 三浦が生徒会のファンヤバいみたいなこと言って生徒会に近付くなって言ってたのは、こう言うことなんだな。 「し、知らないよ……」 俺の背後でめっちゃ小声で呟いてる岡も同じ気持ちらしい、そうだよな、俺も同じ立場だったらそう思う。 「でも注意なら今みたいに話せば良くないっすか? どっかに連れてってさっきみたいな勢いだと、先輩たちが勘違いされません?」 「え、だって……呼び出して注意した方が、効果的かと思って」 「確かに怖いすけど、先輩たちの印象悪くなるだけじゃないすかね。折角身だしなみに気合い入れてんのに勿体ないでしょ」 見た目だけなら女の子みたいだし、化粧までしてるんだから可愛いままでいれば女子ウケもいいだろうな女子いないけど、何かこう言うアイドルグループウケそうだし、と適当なことを思ってれば「そ、そうかな……」と何やら満更でもなさそうな反応が返ってくる。 「え、えっと、じゃあ、そう言うことだから」 「具合悪いのにごめんね」 「君、話聞いてくれてありがとう」 と小柄トリオはキャッキャッしながらパタパタと走って去ってったので一歩前に出て振り返れば、岡が「ごめん」と頭を下げた。 「か、隠れた上に相手までしてくれて……」 「大変そうだな。じゃ俺はこれで」 探険するのを思い出したので何か言いたげな岡に、じゃ、と手を上げて別れる。 あのまま一緒に居るとまた誰かに絡まれて放課後が終わりそうな気がしたんだんな、と校内をぶらついて探険してると、上の方から「なあってば!」と言う大声が聞こえてきた。 発生練習、もとい人間メガホンとあだ名を付けられてる転校生くんだ。 「凌だって、……、なんだろ!? だったら、……で!」 はっきりと聞こえないので割りと離れてるらしい、今ここが3階なので3階よりも上の階ってなると、4階だっけ。 3年の教室がある階かー、今日は3階まででやめとくかな。 「あれ、マサ坊。こんなとこでどーしたんスか?」 とガチャっと目の前のドアが開いて、中から猛くんが出てきたので「おあ、猛くんだ」と思わず呟いてしまう。 「昼ぶり。ちょっと探険してたんだけど」 「校内? 言ってくれたらオレ案内しますよ」 「部活あるのにいいよ、それにちょっと疲れたし帰ろうかと思って」 「もう下校時間になるッスからねえ、オレも帰るとこなんで一緒に帰りましょ」 「うん」 ドアを閉めて鍵を掛けてるので、どうやらここが情報部の部室なのかと顔を上げれば放送室とプレートが下がってた。 「部室に使ってるんスよ、マサ坊、情報部気になってます? 入部する?」 「いや、んー、猛くんが困ってるなら入部してもいいけど、別に1人でも大丈夫そうじゃん」 「マサ坊が心配なんで傍に居てくれた方がいっかなとは思ってるんスよー、そう言う点では困ってるッスね」 「じゃあ1人で平気だな」 「困ってるって言ってんのにこれだよ」 ヘラヘラ笑ってる猛くんの隣を歩きながら、猛くんと同じ学校通ってるのそう言えば初めてだなと今更ながら思う。 会うのが多くても頻度週一とかだったから、下手すると毎日会うことになるかも知れないのか。 たまに会う幼馴染みのお兄ちゃんみたいな人だったので、何かちょっと変な感じだ。 「マサ坊? ボーッとしてどーしたんスか?」 「ん、何でもない」 「まあオレと一緒ならいーっすけどー、他の男と一緒の時はやめてくださいねマジで、ほんとにボーッとしないでね」 「またローカルルールか、ローカルルール多いなこの学校……」 「え、マサ坊、ローカルルールって思ってんの?」 嘘でしょと驚く猛くんに、ローカルルールじゃなかったら何なんだと思いつつ「独自性が過ぎるよな」と適当に頷けば、「そこからかー、そこからなのかマサ坊ー」と頭を抱えられた。 どこからだよ。
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