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2日後の放課後、俺の手元には新品のジャージが。
隣に居た三浦が「サイズ合うジャージにしたんだ」と覗き込んでくるので、そう言えば陣先輩から借りたジャージって言ってなかったなと思い出し、「そうそう」と適当に頷いておく。
「これで今日からバレー部の見学に行ける」
「バレー部、火曜と金曜は休みだけど?」
「マジ?」
今日は月曜に俺が転校してきて5日目、金曜日だ。
休みなら行かなくていいかと急に手持ち無沙汰の気分でジャージの包装を破けば、「と言うか」と三浦は首を傾げた。
「凩は、バスケ部に入るんだろ?」
「諦めてなかった。いや……家庭の都合でバスケ部とサッカー部はやめなさいってママに言われててさ」
ママじゃなくて猛くんにだしホモに狙われるからなんだけど、「ママって」と不満げに三浦は口を尖らせる。
少し離れたとこで雑談してた原口が聞こえてたのか「サッカー部も!?」とショックを受けてたので頷いておく。
「でもバレー部って変人多いからやめとけば?」
「やっぱ変人多いのか、そこなんだよな、ちょっと気が引ける」
「やめとけって、高校から違うことするのもアリじゃん、バスケとか」
「バスケはママに止められてるから」
「ママ連れてこいよ」
「ママは女人だから学校入れないじゃん」
「確かに」
実母をママなんて呼んだことないし、ちなみに母さんとは連絡取れないので声聞かせろと言われたら猛くんに頼んで母さんの声真似して貰うしかない。出来ないと思う。
0から何か始めるのもアリか、とふと教室の入口を見れば、数人の視線がこっちを見てた。
「部長、凩がジャージ手に入れた!」
「よし、金井。入部届は持ってるか?」
「ここに!」
「うわ、バレー部だ!」
三浦が悲鳴を上げた、確かに入口をガチガチに2人で固められてたらキモいよな。
「こ、凩雅也くん!」と金井とか言う俺の中でキモい代表格が教室に踏み込んで来て、俺の前に来ると1枚の紙を差し出しながら頭を下げてきた。
「一目見たときからファンでしたっ、バレー部に入ってください!」
入部届と書かれた紙には、『所属』の欄に『バレー部』と汚い文字で書かれてる。
「入部届って、代筆駄目じゃないすか?」
「え、そ、そうなの!?」
「いや知らないけど、俺、そこまで字汚くないんで」
「字が綺麗な凩雅也……!」
また何故か感動した上擦った声に怖、と引いてればもう1人が「名前だけ本人なら大丈夫だ!」と要らんことを言いながらやって来た。
確かこの人は部長だったはず、アソコのサイズが陣先輩に負けてる人だ。くそ、マジで要らん情報消えろ。
「と言うか何故凩はそんなにバレー部に入るのを渋るんだ?」
「え、や、その……勢いヤバくないすか? 特にこの人」
と金井とか言う人を指せば、「凩に認知されてる……!」と興奮してるのを見て部長さんが「それについてはマジでごめん」と代わりに謝ってくれる。
渋ってる自覚はある、と言うか。
「そこまで熱烈にウェルカムされるほど、俺、上手くないし。3年の時ベンチ多かったから、幻滅されるの怖いんすけど」
「そう言えば何で凩は去年ベンチだったんだ?」
「後輩のリベロが俺が居ると活躍出来ないってコーチに言われてたし、あとはちょうどじいちゃんが夏ぐらいまで調子悪かったので見舞いとか行ってたから単に練習足りなくて」
コーチが後輩育てたいって言ってたし俺もじいちゃんが心配だったので出れたら出ますって感じで、練習足りない奴が輪を乱すのも悪いからって退部しようかと思ってたくらいだった。
後輩のセッターが「辞めないでください!」って泣き付いてきたので、お情けにベンチに入れて貰ってただけで。
「つまり凩は、後輩の為に試合に出なかったのか?」
「どっちかと言えばじいちゃんの為っすね、一応何回か試合には出して貰ったし。でもそんな感じなんで期待値バリ高なとこ申し訳ないすけど、即戦力には」
「うちにはリベロ居ないから安心して入部してください!」
「話聞いてないのかな」
金井さんが「聞いてた、一字一句漏らさず!」と返してくるのでそれも嫌だなと引けば、「確かにリベロが抜けたんだよ」と部長は頭を掻く。
「今年の1年にリベロは居なかったし、出来ればリベロ経験者が居てくれると助かるんだが」
「そなんすね……まあ、他にやりたいスポーツないんで、入部はしたいんすけど」
「凩!」
「この人怖くて入部する気が萎える」
「マジでごめん、いつもは冷静なんだ、凩のこととなると熱くなると言うか」
「じゃあ俺、冷静な姿見られないじゃん」
この人に冷静なとこ存在するのが疑わしいと、入部の方向で話が固まりそうだなと思ってれば「あ、あの!」と森が少し怯えながら近づいてきて、俺の腕を掴んだ。
「怖がるようなところに、うちの凩くんはあげません!」
「うちのて、森、いつから俺の母さんになったんだよ」
「そうだそうだ、凩はバスケ部に入るんだ」
「だからバスケ部とサッカー部には入らないって」
三浦が反対側の腕を掴み、まだ諦めないので「絶対バスケ部は入らない」と断言すると、面白くなさそうに金井さんを指差す。
「あんなのが居るとこには入れるのかよ」
「それな。そこなんだよ」
「金井のせいで凩が入部したくないのか……よし、金井。退部してくれ」
「部長!?」
「冗談だ、冗談。ただそのテンションで絡まれた凩が嫌がってるから落ち着かないと退部して欲しい」
「ガチトーンだ、マジのやつ……ごほん、おれも憧れの凩に浮かれまくってたけど、大分リアル凩雅也慣れしてきたので、も、もう大丈夫……」
「俺慣れとは」
「凩……バレー部にはリベロの、いや凩雅也が必要なんだ……入部してください!」
再度入部届を差し出しながら頭を下げる金井さんに、そこまでリベロが必要かなと思いつつ、まあ他にやりたい部活とかないしと森と三浦に「腕離して」と断ってから離れて貰ってから渋々受け取り、鞄からペンを取り出して名前を書き「じゃあ」と金井さん、ではなく部長に渡した。
「入部、します」
「! 凩!」
「休みらしいけど今日見学に行くつもりだったし、暫く何にもしてないからとりあえずボール磨きからよろしくお願いします」
「そうだな。土曜は午後、日曜は午前に一応あるから、明日体育館に来てくれるか?」
「おけっす」
「こ、こここ、凩と、同じ部活……」
「あと金井はなるべく近づけないよう、他の部員にも通達しとく」
「マジ助かります」
「何で!?」
じゃあ、とまだ何か喚く金井さんを引っ張り部長は去ってった。
嵐のような感じだったな。
「よし、じゃあ今日はどっか走り込んでおこうかな。マジで運動足りてないし」
「一緒に走ろうか?」
「え、でも三浦、部活大丈夫?」
「……大丈夫じゃないな、遅刻だし凩は入部しないし」
「悪いな、バスケ部頑張れ」
面白くなさそうな三浦を送り出し、今日は暇らしい森と一緒に寮に戻ってから着替え、外に出る。
「よし、っと……ん?」
寮から出て適当に走り出せば、前の方で誰かが先に走ってるのが見えた。
金髪の頭が見え、今時不良みたいな頭でも走り込みしたりするんだなと考え、これを言ったらまた陣先輩にじじいとディスられそうだなと思って反対側へ足を向ける。
不良とは絡んだ経験がない、エンカウントは避けるべきだ。
しかし、敷地内をぐるっと周回してしまうとかち合う訳で。
前方から先ほどの金髪が見え、そっと俯きがちにしながら走る。
設定はこうだ、走ってたら疲れてきて俯いた、これだ。
「は、は……おい、大丈夫か?」
とすれ違うか、と言うとこで金髪は何を思ったのか足を止め、俺の前に制するように腕を広げたので俺も仕方なく足を止めた。
「あ、……大丈夫す」
顔を上げれば、金髪にキリッとした顔立ちの男前とさぞ鍛えられた肉体をTシャツから覗かせる、陣先輩くらいの背丈の長身の不良が居た。
耳のピアスの数はあれもう不良認定でいいんじゃないか、汗だくなのにどこか涼しい顔をした不良だった。
背が高い奴は顔がいい法則でもあるのかこの学校、と言うレベルの顔の良さだ。
不良は息を付きながらTシャツの裾を上げ顔の汗を拭い、「顔色は大丈夫そうだな」とフッと笑った。
「お前、走り方キレイなのに、途中から俯いたろ? 具合悪い時は無理しない方がいいよ」
「そっすね」
具合悪いのは不良とどう話していいのかわからないからの設定だったが、何やら気さくそうな男前に気が緩む。
「にしても、1人で走り込んでるのか。何部? 見ない顔だけど」
「あ、今日からバレー部で。休みらしいから」
「ああ、バレー部か。自主的に走るなんて偉いじゃん」
「あ、どうも……先輩? は、何部なんすか?」
「オレは帰宅部」
「え、寮は向こうっすけど」
帰宅部なのに帰宅せず走ってるのか、と驚く俺に、帰宅部の男前は目を丸くし、それからフッと笑った。
「知らなかったのか? 今時の帰宅部は筋トレするんだ」
「マジか……帰宅部ヤバ」
「だろ? と言うか1年か、へえ、面白そうな1年が今年は多いな。お前1年なら知ってる? 諏訪真琴って奴」
「諏訪? いや、知らないかも。まだクラスの奴ぐらいしか知らないんで……有名なんすか?」
「おっと、知らない。有名らしいんだよ、どんな奴か聞こうかと思ってたんだけどな、じゃあ別に知らなくてもいいか」
そんな有名な1年居るのか、転校生くんみたいだな。
よく考えたら転校生くんの名前知らないな、俺。
毎日声は聞こえるし、何か問題をたくさん起こしてるらしいけど。
「呼び止めて悪かったな、バレー部」
「ああ、いや。何か知らなくてすんません」
「いいって気にするな。知ってても知らなくても、どうだっていいんだよ。遊んでやるだけだし」
「遊ぶ約束してんのに知らなくていんすか?」
「ん? ……ああ、遊んでたら知れるだろ? じゃあ、またな。無理しないで早く帰って寝ろよー」
ぽんぽん、と肩を叩かれ金髪は去ってく。
不良かと思ってたけど、どうやら気さくな帰宅部の先輩だった。
人を見た目で判断しちゃ駄目だってじいちゃんも言ってたな、その通りだったじいちゃんごめん、今度から言いつけは守る。
一部を除けば意外と充実した転校して1週間の牢獄ライフはこうして終わったのだった。
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