生徒会に御用心

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生徒会に御用心

日曜の昼、ジャージのまま着替えるのが面倒で1人で食堂にやって来た。 バレー部に入部して土日と部活に参加してみたとこ、雰囲気は良いのとすんなり受け入れて貰えたけど金井さんが「凩と空気共有してる!」と興奮して怖い点を除けば、除けない無理。 他の1年の中では金井さんはカリスマ的セッターらしく、「金井先輩に優しくしてあげてくれ」と言われた、なら代わりに怖い思いしてくれ。 意外と実力校らしいので練習量も多くて掃除終わったらへとへとになったな、と部屋に帰る前に食堂に寄った訳で。 1人で来るの初めてだな、いつも誰かしらと来るし、土日は学食が閉まってるので逆に食堂は終日開いてるから気軽に寄ってしまった。 「何食おうかな」 フラッと立ち寄ればそこそこ人が居る、空いてる席ないかなと私服で休日を各々楽しんでる辺りを見てると見たことある人たちと目が合う。 「あ、君……!」 「あ、どうもです」 1人が立ち上がって俺の方に寄ってきた。 女子でも気合入れてから着そうな可愛い服を着た、親衛隊の、前に岡に注意してきた先輩たちだ。 私服だとマジで男なのを疑うな、というか男でそう言う服着る勇気がすごい。俺だったら泣いて土下座して許しを乞うけど、また似合ってるからなんだろうなあ。 「1人なの?」 「そなんすよ、空いてる席探してて」 「そうなんだ……よければ、一緒に座る?」 「いいんですか? 邪魔じゃない? あと俺、今汗臭いかも」 着替えないで来たし、と言えば「大丈夫」と微笑まれ可愛い女子にしか見えなくてついうっかりオッケーして相席して貰うことにした。 見渡す限り男で先輩たちも男だけど、むさ苦しさがないので癒される感じがする。 「そう言えばまだ名乗ってなかったね。僕は3年の山下、才賀会長の親衛隊隊長」 「ぼくは3年の村田、松宮副会長の親衛隊隊長だよ」 「ぼくは2年の菊池、神崎会計の親衛隊隊長」 名前がたくさん出てきた、えっと山下先輩、村田先輩、菊池先輩か、よし覚えた。 「俺、1年の凩っす。何か相席してすんません」 「ううん、良いんだよ」 先に食べてた3人は軽めの彩り鮮やかなランチプレートを頼んでたので、肉でもガッツリ食べようかと思ってたけど気が引けてミートソースパスタを注文した。俺の中でパスタはオシャレだ。 親衛隊隊長ってことは、全員ファンクラブ会長みたいな感じなのか、何かすごいな。 「凩くんは、部活やってたんだね」 「あ、そなんすよ、バレー部に入って」 「バレー部かあ、変な人多くてちょっとむさ苦しいイメージあるけど大丈夫?」 「やっぱバレー部って変人のイメージ多いのか」 と金井さんを思い浮かべ、あの人のせいじゃないのかと疑いつつ、「でも体育会系の部活ってむさ苦しくないすか、男子校だし」と言ってればちょうどパスタが届いた。 会釈して受け取ると「えーでも」と菊池先輩はパイを皿に置く。 「バスケ部は全然むさ苦しくないかも、何か爽やかって言うか」 「わかる、あとサッカー部も爽やかだよね」 「うん、カッコいい人多いもんね」 なるほど、ホモに狙われやすい部活の理由がなんとなくわかったよ、猛くん。 イケメンが多くて爽やかで華があるからなのか、うちのバレー部の部長は筋肉質で他の部員もアタッカー中心に結構がたいがいいかも。 「この学校のバレー部は攻撃的だからがたい多い人が多くてむさ苦しく感じるのかな」 「でも凩くんがアタック? するならみたいかも」 「あ、俺は守備専なんすよ。攻撃しないボール拾い係みたいなとこ」 「へー」 なんて談笑しながらパスタを食べ進めてると、大きい声が聞こえてきて、テーブルの空気が突然ピリついた。 ん、これはもしや、転校生くんではなかろうか。 出入口に視線を送れば、小柄の生徒が金髪と爽やかそうなイケメンを両サイドに食堂に入ってくるのですぐ目を反らし、仇のように恐ろしい顔をしてる3人にへらっと笑いかける。 「パスタ久々に食べたけど美味いすね、先輩たちはパスタとか食べます?」 「え、あ、うん、よく食べるよ」 「そうなんだ、ミートソース以外に何かオススメある? 今度食べようかな」 「あるよ、えっとね」 殺伐した空気が消え、空気読めないタイミングで話しかけた俺の為にタブレットを弄りながらパスタのメニューを開いてくれた。 「パスタってすげーメニューの量ありますね」と笑えば、「凩くんはいつもどんなもの食べてるの?」と山下先輩がクスクス笑う。 「え、何か肉とか」 「野菜は?」 「サラダとかも食べないとダメだよ?」 「ぼくのアボガドサラダあげようか?」 「野菜も食ってますって」 「あ、お前ら親衛隊だろ!」 と折角いい雰囲気になりかけたとこでクソデカ声量で遮られ、先輩たちは浮かべてた笑みをすぐ消し嫌そうなものに変えて声がした方を睨むので、俺も向ければ転校生がこっちを指差しながらズカズカとやって来た。 「だったら何」 と隣の山下先輩が俺と話してた時とはまるで違う冷たい声と顔を向ければ、転校生は「お前らがさあ!」と声を上げながらテーブルをバンッと叩く。 その衝撃でミートソースが跳ね、テーブルを汚すのでおいおいとペーパーナプキンで拭った。 食事中にマナーが悪すぎる。 「凌やみんなが迷惑してんだよ! 勝手にそう言う目で見てさ!」 「悪いけど、君みたいな生徒が居るから親衛隊は存在してるんだけど? 僕たちは、お守りしてるんだよ、君みたいな美形に無神経に近づく輩から」 「は!? おれは友だちだ!」 「友だち? 本当に? 才賀会長を追いかけ回してお仕事の邪魔をしてるじゃない。部屋まで行って迷惑かけてるのは君でしょ」 「違う! おれはそんなことしてない! 凌の為に!」 ん、凌って、そう言えば才賀先輩の名前か、なるほど。 山下先輩が冷静に対応してても転校生は話を聞かないのか大声で被せて、もう一度テーブルを叩くので俺は思わず立ち上がった。 「な、何だよ、お前……」 「凩くん……?」 「あの、めっちゃうるさいしテーブル叩かれて飯食うの妨害されて迷惑なんすよね」 「は……?」 「迷惑、なんだけど? あと、先輩が答えてるのに全然聞かないじゃん、話する気ないんなら悪いけどどっか行ってくれると助かる。俺たち、飯食ってるから」 な?と笑えば、一瞬に顔を真っ赤にして「迷惑ってなんだよ!」と転校生が俺のもとにやって来てものすごい勢いで胸ぐらを掴んでくる。 うわ、俺より背が低いのにめっちゃ力強、とビビるが山下先輩たちが立ち上がりそうになるのが見えたので手で制して転校生を見下ろした。 「間違ったこと言った? 俺のミートソース見てくれよ、テーブル叩かれてソースが散らかったんだけど。食事の邪魔したってことじゃん」 「知らねえよ! 邪魔ってなんだよ!」 「いや、邪魔でしょ。少なからず俺には邪魔で迷惑だけど、考えてもみて欲しいんすけど、例えば君が飯食ってる時にテーブル叩かれてミートソース跳ねたらどうすんの? ミートソースって服に跳ねたらなかなか落ちないじゃん」 「そんなのテーブル叩く奴が悪いだろ!」 「だよな? それ、君が今したんだよ。それは、どういうこと?」 と笑いかければ、転校生は何か言おうと口を開いて、ようやく俺の言葉が頭に伝達したのか悔しそうに胸ぐらを掴む力を強め、いや待て、それは絞まる絞まる。 「っ、う、ちょ……」 「おれは悪くない! おれは悪くない!」 「ま、それ、」 「おれは!」 「何してんスか?」 ギリギリと絞められてマジでヤバ、と苦しさに目を瞑りかければ、聞いたことがある声が真後ろから聞こえ、俺の胸ぐらを掴んでた手が外れた。 「この手、何スか?」 「あ、……に、すんだよ!」 「っげほ……はー、死ぬ、って……」 真後ろから伸びてきた手に掴まれたらしい転校生は勢いよくそれを振りほどき、「おれが何したんだよ!」と吠えるので、いやいや現行犯でしょと思いつつ呼吸を整え後ろを見ればちょうどスマホの画面を向け眼鏡の奥で目を細めてる幼馴染みが。 「これね、リアルタイムで風紀委員に動画送信中なんスよー……君が胸ぐらを掴んで吠えてたの全部、ね? 多分すぐ来るんじゃねえかな?」 「おれは……!」 「悪くねえなら逃げないでいればいいじゃねえッスか? この1週間、君のことどうにかしたくて怒ってる風紀委員が押し寄せてくるだけだし」 グッと俺の肩を後ろに引き耳元に顔を寄せて「マサ坊、大丈夫?」と聞いてくるので軽く頷く。 「……、おれは、悪くねえから!」 「あ、真琴!」 その一瞬の隙に転校生は声を張り上げ、逃げるように食堂から出てくのを連れの2人が慌てて追い掛けた。 「何なんだあれ」 「、凩くん、大丈夫!?」 山下先輩が立ち上がり俺の手を触ろうとしたけど、猛くんが俺の体ごと後ろに下がる。 「まだ苦しいみたいッスね、これは大変だ。早く手当てしなきゃ!」 「え、え、あの本間、」 「じゃあ親衛隊の皆さんは、風紀委員の皆さんに事情説明してくださいッスー、オレは手当てに連れてくので、では!」 「お、おい、ちょ、」 何を思ったのか猛くんは俺を抱き抱え、そのまま走り転校生と同じように食堂を出るんだけど、ちょっと待て、抱き抱えるのだけはやめて欲しい。 「た、猛くん、ちょ、せめておんぶ、おんぶがいい……!」 「はいはい、あとでねー」 「今して欲しいんだけど、いやじゃなくて、下ろして?」 男抱えながら走る筋力が猛くんにあることに驚くが、エレベーターまで抱えられしまい、乗り込んでからようやく下ろされたかと思うと前から抱き締められた。 「うお!? ちょ、猛くん!? 何!?」 「……マサ坊、死んじゃうかと思った……!」 「お、おお……俺も死ぬかと思った。助かった、サンキュー」 「……ねえマサ坊? オレ、今めちゃくちゃ心配してるんスよ? 何でそんな軽いの?」 「だって猛くん助けてくれたから安心してるし」 「……マサ坊はさあ、ちょっとさ、そう言うとこッスよ? あーもー信じらんねえ、何この坊っちゃん、マジでほっとけねえ」 「それやめて」 肩口に額をグリグリしてくるのをやめてと抗議すると、「心配させた罰ッスよ」と怒られる。 「……とにかく、もう転校生に絡まないでね、マサ坊」 「飯食うの妨害されたから」 「うん、そうだね、邪魔されたもんね。論破してるマサ坊はカッコ良かったけど今度は近づいて来たら逃げてね?」 「そっすね」 そこでエレベーターが止まって戸が開くので、「猛くん、離して」と言えば渋々離して貰えた。 「……マサ坊、汗臭」 「ジャージ姿で察して欲しい」 部活後なんだよこっちは、と言えば「部屋まで送ります」と腕を引かれながら、まだ部屋の場所教えてないのに何で知ってるんだと思いつつ、ほんとに部屋に送られる。 喉を確認して貰い大丈夫そうらしく手当てはいらないみたいで、「マサ坊、今日はもう部屋に居て、夕飯届けるから」と猛くんにめっちゃ釘を刺されてしまった。 じゃあゲームでもしてる、と頷き何か用事があるらしく猛くんを見送ってから部屋に入る。 「……転校生、めっちゃ話出来なかったな、怖」 まだ金井さんのがマシだな、と喉を擦りながらシャワーに直行した。
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