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会長の才賀先輩と並びながら歩くこと数分、校舎の中に入って広くて綺麗で金がかかってるな、と言う雑な感想を抱きつつ、気になったことがある。
校舎に入った辺りからこう、やけに人の視線と囁きが、観衆の中歩いてる感じがして居心地が悪い。
自習らしいが授業中にも関わらず、教室内外から生徒がまあ右左前後に居る。何これ。
歩く道は出来てるって言うか、才賀先輩が歩く前はモーセの如く開くと言うか、視界的にも体感的にも人酔いしてきた。
もうシャバの空気が恋しいレベルで息苦しい、酸素薄い、二酸化炭素多い。
そっと向けられる視線に視線を向ければ、仇のように睨まれてしまい、驚いて辺りを見渡せば同じように何人にも睨まれてるじゃないか。
怖……と思いつつ、確かに野生の動物もテリトリーに何か入ってきたら威嚇するよな、とハッとし、つまり俺は敵と思われてるのかと納得して両手を肩付近まで上げた。
大丈夫、手ぶらだし敵じゃありませんよアピールだ。
何故かそれをした途端、ざわつく。
「何してんだ、あいつ……」
「才賀様の隣で珍妙な動きしないでよ……」
「馬鹿なんじゃない?」
聞き取れる範囲で馬鹿にされてる。
「何してるんだ?」
才賀先輩も俺の挙動に驚いたのか、いや確かに隣で降参ですみたいなポーズ取ってる初対面の奴居たら他人のふりするわ。
「護身的な感じっす多分、ところで職員室って遠いすか?」
「いやもう着く、そこだ」
「良かった。才賀先輩、案内ありがとうございました」
「ん?」
「職員室まで案内してくれるって言ってくれましたよね、もう着いたなら自習でもさすがに教室に戻らないとでしょ。お手数おかけしてどうもです」
頭を下げれば才賀先輩は目を丸くしてるんだが、え、お礼の言い方が駄目だったか?
「そう、だな……その、大丈夫か?」
「大丈夫とは……」
すぐそこの職員室に入るだけなのに何を心配されることがあるのかわからないが、まあ大丈夫っすと頷いてもう一度頭を下げ、職員室の戸を叩き「失礼します」と取っ手を掴み開けた。
と中は無人だ。
「誰も居ない……そう言えば授業中だった」
「そうだ、自習と言えど授業中だ」
「わ、先輩」
真後ろに今しがた別れたはずの才賀先輩が立っており、「案内したは良いが無駄足になってしまった」と低い声が割りと間近に聞こえ、何となく一歩前に出て「授業中っすもんね」と頷きながら振り返る。
「俺はどうすれば……教室に行けば、いや教室が何処かも知らないな。うーん、この放置っぷり、もしかして俺、転校してないのでは?」
「いや、確かに凩は編入している。ただ」
「ただ?」
才賀先輩はそこで職員室の戸を閉め、辺りを見渡し誰も居ないことを確認すると息をほっと吐いた。
そして俺を見て頷く。
「転校生は、もう1人いる」
「……どういう……?」
「そのままの意味だ、つまり、今日転校してきた生徒は2人、凩の他にもう1人いる」
「え、ど、同時に2人転校してきたって、そんな偶然あるんだ。へー、こんな時期に」
そんな偶然あるのか、ヤバいな。
自分で言うのも何だが、この4月下旬に転校なんて少し早めて入学しろレベルな時期にだ、転校してくるなんてよっぽどの事情の持ち主しか居ないぜ?
俺は両親の離婚の危機で五体満足じゃなくなりそうなので放り込まれたが、それくらいヤバいクラスの事情だろ?
可哀想に。
「そうだ。俺たちは、転校生が来ると言うのは聞かされていたがそれが2人と言うことまでは聞いてなかった。それで先に来た1人だけを案内し、凩を放置してしまっているんだろう」
「あ、あー、そう言うことか。送迎車がなかったのも、校門の前で小一時間放置されてたのも、先に転校生が居てもう1人居るって誰も知らなかったのかー! ……誰も知らなかった? マジ、教員も?」
「教員は、どうかな……聞かされてるはずなんだが……報連相が怠ってしまったんだろう、重ね重ね、すまない。案内役と言うのも生徒会が役割を充てられていてな、1人は他の者が案内したんだが……」
「いや才賀先輩が謝ることじゃないすよ、転校生って普通2人も来ないでしょ」
「そうだが……お前ばかり放置されては不公平だろう」
同情されてしまってるようだ、可哀想に見えてるに違いない。憐憫の視線が痛いぜ。
「まあ、そっすね……ちょっと疲れたかなって感じっす。何処かに座りたい」
無人の職員室のどっか適当に座ってもいいかな、と思った俺に「休憩か、それなら」と才賀先輩が声を上げた。
「保健室に行こうか。ここからそう遠くはないし、今の時間保健医は居ないだろうが開放しているから、長椅子もあるし人気もない。授業が終わるまで休んでも構わないだろう」
「なら休ませて貰いに行ってきますね、何処にあります?」
「案内しよう、こっちだ」
「度々すみません」
「それこそ、凩も謝ることじゃないだろう」
確かに、厚意を有り難く頂戴し廊下に出れば、先程の人集りが幻覚だったかのようにシーンとしてる。
「ひ、人が、消えてる……」
「教室に戻れと注意した、目障りだったろ?」
「か、かっけえ……!」
生徒会長の鶴の一声で生徒が蜘蛛の子を散らしたのか、見たかったな。
と言うか、生徒会長って普通は生徒の代表!みたいな感じなはずなのに、何かこう、もしかしてちょっと違うのかな……
牢獄特有の文明があるのだろうか、ローカルルール的な……怖いな。
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