生徒会に御用心

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シャワーを浴びタオルで体を拭いてると、バンッ、ガタッ、と大きい物音が聞こえ何だ何だとパンツに手をかけたとこでドアが勢いよく開く。 「雅也!」 「、セーフ!」 ギリギリのタイミングでパンツが履けた、危うく全裸だった、最低限になったけど股間が隠せれば……陣先輩居ないと思って鍵かけるの忘れた。 ドアを開けた陣先輩は険しい顔をし、どうしたんだと思いつつ着替えを抱き締める。 「すんません、今シャワー浴びてて」 「首絞められたんだって? 大丈夫か?」 「え、何で知って、おあ」 陣先輩はずかずか踏み込んで近づくと俺の右肩と顎を掴み、くいっと顎を持ち上げられた。 待って、顎を掴まれるのは個人的にいい思い出がないから急に掴むのやめて欲しい。 「せ、先輩、あの」 「……特に何とも無さそうだな」 どうやら首の状態を確認したかったようで、素早く確認し顎から手を離してくれる。 「はあ、めっちゃ慌てたじゃねえか……」 「もしかして聞いて来てくれたんすか?」 「当たり前だろ、被害者が同室の奴なんだぜ? 心配ぐらいするつうの」 土日はやり残した委員会の雑務処理で休日登校だと言って朝出てったのに、事件と言うか騒動と言うかを聞いて急いで戻ってきたのか。優しい。 「すんません」 「あんたが謝ることじゃねえだろ……とりあえず、服着て向こうで話聞くわ」 ふう、と息をついてシャワールームから出てくので慌てて着替えて俺も出る。 ちょうど定位置となるローテーブルのとこに座りビニール袋から物を取り出しながら「ほら」と並べ手招きされるので隣に座ると、お茶とパンが。 「え、どうしたんすかこれ」 「渡されたんだよ。情報……あんたを部屋まで送った奴に、食事の途中だったから変な時間に腹空かすと思うんで渡してくれってな」 猛くんが。 わざわざ気を遣ってくれて助かる、少し足りなかったからどうしようかと思ってた。 どうも、と受け取り早速封を開ければ「で?」と陣先輩がローテーブルに肘をついて俺を見る。 「何で親衛隊庇って転校生に絡んで首絞められたんだ?」 「えっと……」 相席して飯食ってたら突然現れた転校生に食事の妨害を受けたのを注意したら胸ぐらを掴む力を強められ危うくちっ息するとこだった、と言うのをかい摘んで説明すると、「一方的だった訳だ」と呆れたような顔を浮かべた。 頷きクリームパンを頬張る、クリームたくさん入ってて美味いやつだ、猛くんさすが。 「んー……雅也レベルの顔なら、手の平返して懐きそうなんだが危害加えてくるとは」 としげしげと俺の顔を覗き込んで来るので「ちょ、なんすか」と近さにビビって後ずさると「逃げなくても何もしねえよ」と苦笑される。 「あんた、そこそこ顔良いのにあんま男にキャーキャー言われねえよな、色気足りねえんじゃねえの?」 「男にキャーキャー言われても全く嬉しくないすね」 「だな、俺も嫌だわ。とりあえず無事で良かった……いや、それじゃ駄目だろ」 「え?」 「あの転校生に灸を添えてやるのに、被害者が無傷でケロッとしてたらパンチ弱すぎねえか? 傷害まで起きてんだぜ? せめて首に指の痕残るとか欲しいとこなんだがなあ」 「先輩、先輩。俺と言う被害者の前っすよ」 「そこで、だ。被害者の凩雅也くん」 陣先輩はローテーブルに肘を付き、既に緩めのネクタイを緩めニッと口角を上げるので、めちゃくちゃ嫌な予感しかしないなりに「うす……」と返事をした。 「被害者アピールをしてくれねえか?」 「被害者アピールとは」 「締め上げられて首に怪我しましたーつう、演技? 何か適当に包帯……は、やりすぎか、湿布か絆創膏とか首に貼るだけで良い。出来れば3日くらいとか。出来るか?」 「え、良いすけど……怪我してないから3日も忘れずに出来るか自信ないっすね」 転校生を加害者に立てたいらしい、実際軽く暴力だし俺は被害者なんで構わないけど、怪我してないとこに貼るのを覚えてられる自信がない。 そう答えて、すんませんと下げた頭は顎に添えられた人差し指によってクイッと上げられる。 さっき後ずさった距離はいつの間にか詰められてた。 「そりゃそうだわな、何もなきゃどこに付けたら良いかわからねえもんだ」 「あの、陣先ぱ」 「仕方ねえから、特別に付けるとこ教えてやるわ」 そう言うや否や、先輩の顔は俺の首に埋められ、状況が理解出来ず「え、先輩何して!?」とバタつかせた足はローテーブルにぶつける。めっちゃ痛い。 「先輩、え、何、距離近、いっ、!?」 「ん……上手く付かねえな……?」 ちゅ、と音が耳の近くで聞こえ、反射的に引こうとした腰と、頭に腕が回り、拘束する形となった陣先輩は俺の首に口を付け吸い付いてきた。 え、何、何してんの!? 「な、は? 陣先、ぱ……何で俺の首、吸って……!」 ちゅ、ちゅ、と音が立てられ続けられ、抵抗し喚く俺は「マジで、何で、何して」と逃げ出したいが先輩は首を上げてくれる気配は0。 「陣、せんぱ、い……やめ、んっ、」 「よし、お待たせ」 ちゅ、と音を立てて涼しい顔でようやくそのご尊顔を上げた陣先輩はするっと俺から手を離し、「絆創膏か何かあったか?」と立ち上がり机の方へ向かうので、俺は今まで陣先輩の口を付けられてた首を手で押さえ「どういう……?」と混乱する。 何で陣先輩は俺の首をあんなに熱心に吸ってたんだ、ん、首を吸う? 「あったあった。ほら雅也」 「え、あ、どうもです……?」 絆創膏を手渡され思わず受け取るけど、何か違うなと思って座り直す陣先輩を思わずガン見してしまった。 そして、思ったことを口にする。 「もしかして、今、キスマ付けました?」 「おう」 即時肯定された。 いや、待って、何で? 「何で……すかね?」 「痕、あった方が付けるの忘れなくて済むだろ?」 「なるほど……何だって?」 「そこに付けとよ」 そう言いスマホを弄り出す陣先輩の腕を思わず掴んでしまう、いやだっておかしいだろ。 「演技の為にそこまでする必要なくないすか? 男子校でキスマとか、ヤバすぎる」 「何もついてなかったらあんた、忘れて絆創膏外しそうじゃねえ? 別に絆創膏しなくても良いが、絆創膏貼る予定で痕結構目立つとこに付けた」 「非情すぎでしょ、絆創膏付けるしかないじゃん」 「だろ? バレたくねえならちゃんと付けとよ?」 「……」 こんなことしてまで転校生を加害者に立てたい訳じゃない、俺は最早何の被害者なんだ。 翌日、位置を神経質に気を遣いながら貼った絆創膏にクラスの奴らが「どうした、凩!」と心配フルスロットルで声をかけてくる度に「ちょっと怪我して」と答えるしかない。 「大丈夫か、そんなとこどうやったら怪我するんだよ」 「はは……うん、えっと……」 三浦が心配そうに聞いてくるので、胸ぐら捕まれたもキスマ付けられたも言えず、「転けてベッドの角にぶつけてさ……」と苦しい説明をした。 「マジかー、ヤバいだろ。気を付けろよ」と三浦は素直に信じてくれるので変な罪悪感に駆られながら、頷く。 その後部活でも部員に「首どうした!?」と心配されたので、「怪我して」と説明すると、そっかー気を付けろーと言われる。みんな素直過ぎる。 「怪我なら良くないけど、良かった……おれ、てっきりキスマーク付けられたのかと思った」 「……」 「いや! そんな訳ないよな、おれの凩がそんな不埒なことする訳ないってわかってるけど、何かそう言う妄想しただけで大丈夫実際の凩はとてもキレイです!」 「はいはい金井、凩にキモがられてるから静かになー」 金井さんの言う通りでどう言ったもんか余計なこと言うなと思って睨んでたけど、その後の気持ち悪い言葉に何も言う気は失せた。 妄想って何だ……?
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