生徒会に御用心

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翌日も忘れずに絆創膏を貼り、クラスの奴らから「怪我、早く治ると良いな」と飴やらチョコを見舞いのように渡されたので、キスマっていつになったら消えるんだ、昨日よりは薄くなってたけどまだ完全に消えてない。 貰った見舞い品で荒んだ気持ちを癒し過ごすと放課後になり、今日は部活休みだなと教材を鞄に詰めてると「また凩1人かよ」と三浦が立ち上がった。 「バスケ部とバレー部って休み合わなくね? 凩休みの日に遊びに誘おうとしてるおれの計画丸潰れなんだけど」 「日曜は昼から休みだよ」 「バスケ部は午後からなんだよ、凩バスケ部入らないからだからな」 「わかったわかった、部活頑張れ」 まだバスケ部に入れようとしてくる三浦を送り出し、他の奴も忙しいらしい火曜日、俺は何しようかなと廊下を出る。 自主的に筋トレするか、部屋に籠って勉強とかゲームするか悩んでから、そう言えば4階の探索してないことを思い出して暇だし行くかと階段の方へ向かった。 4階は3年の教室と音楽室があるのはわかる、それ以外はまだよく見てなかった。 と階段を登れば、前をフラフラとしながら登る生徒が居て危なと思って1段飛ばしで登り隣に並ぶ。 「フラフラしてますけど大丈夫すか」 「え?」 「うわ、顔良い」 同じくらいの身長の、小綺麗な顔立ちをした、何か合唱団で歌ってそうな感じの栗毛の美少年に、また別の系統の美形だな、美形多くないかこの学校、怖。 「何、キミ……」とその綺麗な顔を不快そうに歪めるので、「あ、すんません」と謝ってから美少年の手元を見て指差した。 大量の紙束を。 「それ、重たくないですか? フラフラして登ってたら危ないし持つの、手伝いますよ」 「お、重たくないよ。気安く話し掛けないでくれない?」 嫌そうにフンッと鼻を鳴らして一歩踏み出した美少年は「重……」と呟くので俺も一歩前に進み、手を差し出す。 「一気に持つより、持てる分を分けて運んだ方がいっすよ」 「も、持てるもん……」 「そなんすか、わかりました」 あんましつこいのもあれかなと思い頷いて「じゃあ」と手を上げて階段を登ろうとする俺、の背中に「ま、待って!」と必死な声が掛けられた。 「ごめん……て、手伝ってぇ……」 「おけっす」 辛そうに見上げてくるので隣まで下り、3分の2ほど取って持てばこれだけでも結構重いなと思いつつ「上です?」と聞けば「うん」と頷きが返ってくる。 「何処まで運ぶんすか、これ。こんな紙の量、このペーパーレスのご時世なのにヤバ過ぎません?」 「え? わかってて声掛けたんじゃないの、キミ?」 「え?」 3階まで登ると美少年は驚いた顔をし俺の顔を覗き込みながら、「だからボク、警戒したのに……違うんだね」と小首を傾げるので距離近いなと少しだけ身を引きながら「違うとは」と聞けば美少年は4階の方へ向かった。 「ボクのことも知らないみたいだね、不思議な子。外部編入の1年生?」 「あ、有名人なのか、すんません。俺、あんまり学校の生徒詳しくなくて、1年っす」 「有名人。そう言う言い方も変なの」 はは、と笑ってさっきより軽やかに階段を登る美少年のあとを追い掛けると4階にたどり着く。 元から探索する予定だったから手間が省けたな。 「この書類はね、生徒会室まで運びたいんだけど」 「生徒会室っすね、わかりま……生徒会室?」 紙と美少年を見比べて、そこでふと先週、才賀先輩と出会い頭にぶつかった時の三浦との会話を思い出した。 確か、生徒会は顔良い奴って言ってた。 「え、せ、生徒会の人、なんすか?」 「うん、そう。本当に知らなかったんだね、ボクは生徒会庶務の植田双葉、2年生だよ。書記の植田一葉と一卵性双生児で2人セットでよく見られてるからわからなかった?」 「え、や、すんません……俺、生徒会の人、才賀先輩くらいしかよく知らなくて」 「会長はねー、目立つからね。これを機に、ボクのことも覚えてね、えっと……」 「あ、凩です。1年の凩雅也」 「じゃあマサくんだ」 ふふ、と笑いながら「ボクは双葉って呼んで?」と隣で笑うので、双葉先輩と呼ぶことにしたけど、いやじゃあまた三浦たちに怒られるんじゃないのかこれ。 「すんません、俺、クラスの奴に生徒会に近づくなって言われてて」 「そうなんだ。でもマサくんはボクのこと、生徒会ってわからなくて運ぶの手伝ってくれようとしたんだよね?」 「はい」 「じゃあ、知らなかったらしょうがないよ。キミは下心無さそうだし、……特に気にしなくても良いよ」 下心、と言う言葉を男子校で聞く羽目になるとは世も末だな、と思いながら「それなら」と頷けば双葉先輩は不思議そうに俺を見てそして破顔した。 「変な子!」 はは、とまた笑ってから楽しそうに歩き出すのをついて行きながら「それにしても生徒会って大変なんすね」と紙束を持ち直す。 「この紙、全部仕事? なんすね」 「あ、うん、そうなんだ。それは来週ある新入生親睦会のプログラムで全校生徒に配るやつの一部。それを今からボクが数枚ずつ綴じるんだよ」 「え、この量を先輩1人で? 他の役員の人はやらないんすか?」 「他の役員には他の仕事あるし、ボクは庶務だからそう言う雑用担当なんだよ……でもちょっと今日に終わる自信ないかなー」 一部、とか言ってたな。つまりこれよりまだあるのか。 全校生徒って何人なのかわからないけど、まあまあの数ってことだよな? それを1人でやるのは辛いんじゃないのか? 「雑用って言っても、そんなに大変なら誰かに手伝ってもらえないんすか? 役員の人が無理なら友だちとか」 「うんー……たまーに副会長とか会計の人とかは親衛隊使って手伝って貰ってるけど、ボク、個人の親衛隊とか居ないし、生徒会役員だから一般生徒と距離置いてるんだ」 色々複雑らしい、顔が良いのも大変なんだな。確かに才賀先輩も陣先輩もやつれた顔してることが多いし、いや才賀先輩はそんなに会ってない。 最後に会ったのは……いや、キスされた時じゃん、いやいや、え、俺今生徒会室に向かってるってことは才賀先輩に会う可能性があるのでは? くっっそ、気まずい。 「マサくん着いたよ」 双葉先輩の声に顔を上げれば、重厚な造りのドアから如何にも金が掛かってそうな雰囲気がある、校長室と間違えてないかと上を見れば、生徒会室、と書かれたプレートが。 「あ、じゃあここで待ってますね」 「へ?」 「俺部外者だし、普通入っちゃ駄目っすよね? だから先に双葉先輩は中に入ってそれ置いてきて、残りを取りに来てください」 「……キミ、本当に運ぶの手伝ってくれただけなの?」 「? そっすね」 手伝いますって言って手伝う以外他に何があるんだ。 本当は中に入って置ければ良いんだけど、普通委員会室とか部室とか部外者は入っちゃ駄目だろうし、三浦があんなに生徒会に近づくなって言うんだから生徒会室なんて巣窟みたいなとこ一番入っちゃ駄目だろ。 双葉先輩は驚いた顔で俺を見てから、「今日は確か、来ても会長だけだったはず」と呟いてから「ちょっと待っててね」と声を上げた。 「会長が今、中に居るはずだから確認してくるね。中に入れても良いか。手伝ってくれたしお礼にお茶くらい出すよ」 「え、や、マジでお構い無く。お礼されるようなことでもないでしょ、これ」 「むう、ボクがしたいんだから! ちょっと待ってて!」 そう言うや否や双葉先輩はドアを開けて「会長ー」と言いながら入ってく、いや待ってマジで、才賀先輩に会うのは気まずいから。 駄目であれ、駄目であれ、と祈ってれば閉まったドアが開き双葉先輩が顔を出す。 「マサくん、会長良いって。本当は駄目だけど、手伝ってくれたなら特別にって」 「い、いやいや本当は駄目なら駄目でいっすよ、はい双葉先輩これ、残りのやつ。ほら俺、何か予定思い出したから多分、帰るんで。ね!」 「予定って何? 部活?」 「え、や、今日は休みすね……いやでもきっとあるから予定、だから──」 「何を騒いでいる?」 そこで少しだけ開いてたドアがしっかりと開いて、双葉先輩に紙束を返そうとしてた俺は、ドアを開けた人物と目が合ってしまった。 「……凩?」 「ど、どうも……こ、こんにちはー……」 「え、何? 2人とも知り合い?」 引き笑いを浮かべる俺と目を丸くする才賀先輩を見比べて双葉先輩は首を捻るので、そっと紙束をずいっと突き出す。 「と、とにかく、俺はもう予定があるんで、運ぶのここまでっすよね、ははじゃあ失礼しま」 「急ぐ予定でなければ、植田が礼をしたいそうだ。茶くらいは出すから中に入ると良い」 「そうだよ。それにそんなに急ぐ予定あるならお喋りしながら運ばないよね?」 「…………そっすね」 美形2人に微笑まれて圧が強すぎて敗北し頷けば、双葉先輩は満面の笑みを浮かべて「入って入って、マサくん!」と中に入ってくし、ドアを開けたまま俺を見下ろしてくる才賀先輩はきっと入るまで開けててくれるみたいなので腹を括り才賀先輩から視線を逸らしながら足を踏み入れた。 「お、お邪魔しまーす……」 2歩中に入ると、凝ったシックな内装だけど無駄なものがなく落ち着いた、テレビとかで見る社長室みたいな部屋が広がってる。 うわすご、と引きつつ感動してると、パタンと真後ろでドアが閉まる音がして思わず肩がビクッとなる俺の耳元に人の気配が。 「……そんなに意識されると、俺もしてしまうんだが?」 「……いっ、いやー、し、しない方が、無理では?」 ファーストキスを奪われてそのまま会わずに1週間経った訳だ、顔を見たらキスされたの思い出して忘れかけた感触とか思い出しそうになって気まずいだろ、才賀先輩は気まずくないのか、もし気まずいならすぐ追い返してくれ。 そんな願いとは裏腹に、クス、と笑い声が耳に囁くように聞こえ、こう、うなじ辺りがぞわっとする。 「そうだな、思い出しそうだ」 「……し、心頭滅却しなきゃ!」 「マサくんー、紅茶とか大丈夫ー?」 双葉先輩の声にハッとし、慌てて才賀先輩から離れながら「コーヒー以外なら大丈夫っす!」と室内の簡易キッチンで茶葉を見てる双葉先輩を見つけ近寄って言えば「あ、座ってていいよ」と言われた。 「え、や、お、落ち着かないんで、手伝います」 「それじゃお礼の意味ないよ? えへ、でもじゃあ手伝って貰おうかな」 「や、やったー」 今、才賀先輩の顔を見たら気まずさで死にたくなるので、双葉先輩を見て凌ぐしかないとケトルに水を注いだ。
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