校舎裏ララバイ

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耳元に顔を寄せてくる道長くんから逃れようと首を引こうにもネクタイが引っ張られてるせいで上手く動けず、ネクタイを掴んでる腕を両手で掴んだ。 「え、や、何……? どういう、ことっすかね」 「何それガチ? ぶってる? ……童貞って言う割りにここにナニ付けてんの?」 「ひ、っ」 ちゅ、と首にまだ消えない、と言うか才賀先輩のせいで上塗りされてまだうっすら残ってるキスマを隠してる絆創膏の上にキスをし、「な、外していい?」と顔を上げて笑うので横にぶんぶんと振る。 「やだ……」 「やだ? 怪我とかサムいこと言わないよな、痕付けられるくらいには遊んでんだろ?」 「あ、遊ぶって、や、マジで、ご、誤解っすから、……いや、キスマは付いてんすけど」 「付いてんだ」 「うす……いやその、これには深い事情があって……だから別にそう言う──」 ぐいっとネクタイを前に引かれ、喋ってる途中で塞がれた口内にぬるり、とした感触に思いっきり目を見開いた。 「んう、む、……ふ、んん」 舌に絡まり擦るように舐められ、首筋がゾワッとする。 何これ、え、舌入れられてるってこと? や、それよりこれ、キスされてるんだけど。 理解した瞬間に掴んだままの腕を引っ張るけど、違う手が後頭部を押さえるように回り、唇の感触が深まり、じゅる、と言う音を立てながら舌を吸われ訳がわからない刺激に思わず目を瞑った。 才賀先輩にされたキスと全然違う、ヤバい、何も考えられない。 ふわふわした感覚、じゃない、一気に思考が奪われるような、ゾクゾクとした感覚に怖さと共に気持ち良すぎてどうにかなりそう。 「……、っは、ぁ」 「は、ヘタクソ……」 ちゅ、と離れた瞬間に腰が砕けてしまい、道長くんは驚いたようにネクタイから手を離して腰に手を回して抱き止めてくれたけど、無理、立てない。 前から抱き締められる形になりながら胸元に顔を埋めて呼吸を整えてる俺の顔を上げ、道長くんは不思議そうに見下ろしてきた。 「マサ、え? キスしたことない?」 「は……こんなの、……ない」 「こんなのって、普通だろ。あーあ、腰砕けたんだ? すっげー気持ち良さそうな顔してんじゃん、男にキスされて嫌じゃないの?」 嫌に決まってる、普通に嫌だ。 キスは女子としたいに決まってる、のに。 「……」 才賀先輩にだけだと思った、キスされても気持ちいいなんて。 なのに、今道長くんにされて、めちゃくちゃ気持ちよかった。 から、もしかして俺は、キスされるのが好き、とかなのか……じゃなかったら、男にキスされて気持ちいいなんて思うはずもない。 経験が足りなすぎるからなのか、もう訳がわからない。 「マサ?」 頬を撫でられて道長くんは面白そうな顔で俺に顔を寄せる。 「オレが、教えてやろうか」 「あ……何、を……?」 「お前、マジそれ素なの? わかんない?」 「や、マジで……や、やめて欲しい……」 道長くんの腰に手を置いて引き離そうとする、けどびくともしない。嘘だろ。 何度も離れようと抵抗する俺を見て、道長くん喉を鳴らして笑った。 「おい、マサー? そんなんで逃げられるってマジで思ってんの? 頭、脳みその代わりにお花でも詰まってんじゃね?」 「は、や……めっちゃディスられてる……嫌がってるってわかってるのに、離れてくれないすか?」 「離れる訳ないじゃん、嫌がってる姿見るの好きだし」 ド、ドSだ……ドSの人間って実在してるのか。 驚き動きが止まる俺に道長くんは「あー何なの、お前」と後頭部に手を回して撫でられてぐいっと少しだけ離れた距離はすぐに密着する。 「だいじょーぶ、嫌なことも痛いこともしないって。マサはそーゆーの、嫌なんだもんな?」 「やっすね……あの、離れ」 「オレが、教えてやるって言ってるよな。キスだけであんなに気持ち良さそうなマサに、特別キモチいいこと」 「は……や、大丈夫です間に合ってます平気っす全然いらないんで!」 「何、他の奴に頼むつもりならオレがしてやるって。オレ、すげー上手いよ?」 何が、何の話してるんだ、怖すぎ。 と言うか他の奴って誰だ、そんな奴居ないし、でも道長くんが言うことは何か、性的なやつだと思う、目の前の人物の色気がすごすぎて死んでしまいそうだ。 顔が良くてこんな色気を自在に放つ男が何で男子校に居るんだ、何で男にこんな誘うような雰囲気を放ってくるんだ、男子校怖い。 「い、嫌だ……怖……」 「マサ、オレ言ったよな。嫌がってる姿見るの好きって」 「え」 「お前に拒否権、ないけど」 「は、ちょ、ん、っ、みち、……っ!」 後頭部を押さえられたまま道長くんにキスをされた、いやされてる。 角度を変え唇を舐められ割り込むように舌を入れられて、ぬるりとまた舌を舐められるとすぐにちゅっと離れた。 「舌、出せよ」と1度言われ、何でと思考があやふやなまま舌を出そうとした時だ。 「おれは悪くない!」 と言う大声が聞こえ「おい待て!」「逃げたぞ!」と喧騒が続いて聞こえて、ハッとして顔を捻れば「おいおい」と呆れた低い声が耳元で聞こえる。 「よそ見出来るなんて余裕あるな、マサぁ。オレに集中しないと駄目だろ?」 「あ、道長く、っ、ふぅ、んん……」 少し背けた顔の向きはすぐに戻され、また口内に舌が侵入し歯列を舐められた。何それ、ヤバすぎる。 「ん……ゃ、」 「──な、何やってんだよ」 目を閉じまた気持ち良さで考えられない俺の耳に、さっきまで大声で聞こえてた声が聞こえて目を開ければ道長くんに舌をじゅる、と吸われる。 待って、マジで待って道長くん! 「ん……ふ」 「ぁ、ん、んぐぐ……っ」 「や……やめろって! く、苦しがってんだろ!」 ガッ、と突然強い力に腕を掴まれ、音を立てながら道長くんが離れれば、何かが俺と道長くんの間に割り込んできて。 「こ、こんなとこで何してんだよ、お前ら! ふ、ふふふ、不純だぞ!」 「……ああ?」 「は……はあ、何……?」 トン、と外壁にもたれ掛かりながら乱入者──転校生は俺に背を向けて道長くんと対峙してる。 何、どういう状況……と息を整えてれば、道長くんの「お前」と転校生を見下ろす目は冷たかった。 「何邪魔してくれてんの? 今さ、すっげーいいとこだったんだけど?」 「だ、だって、……だって! ミートソースが、嫌がってたじゃん!」 「……は?」 「ミートソース……?」 何で急にミートソースが? 思わず聞き返してしまうと転校生はバッとこっちを振り向いて、俺の手を握ってくる。 え、何怖。 「大丈夫だったか、ミートソース!」 「……え、は? ん? 何、待って?」 「こ、こんなとこで、襲われて、怖かったよな……でも安心しろ、おれが守ってやるからな!」 や、うん、確かに襲われてたかもだけどちょっと待ってくれ、えっと何? 「……え、ミートソース……俺?」 「? そうだろ!」 「そうなの? 何で?」 どうしてミートソースってあだ名付けられ、あ、あーわかった! あの時、俺がミートソース飛んだって怒ったからか? だから俺にミートソースってあだ名を? いや、何で? 混乱する俺をよそに転校生は俺の手を離し、再び道長くんを睨むように向き直った。ちょっと待て、ミートソースってあだ名だけは改めてくれマジで。 「お前、おれを無理やり連れてった奴らの仲間だろ! おれをあんな奴らに囲ませておいて、非力なミートソースを襲うなんて! 最初から正々堂々おれのとこ来いよ!」 そして非力って言われたい放題だ、いや非力だけど。 「何で。仲間はお前に興味あったけど、オレはないよ? オレはマ……ミートソースくん、ブフッ……にあるから……フフッ」 「ちょっと、俺の遺憾なあだ名を勝手に呼んで笑うのは酷すぎでしょ」 「悪い悪い、ミートソース……ククッ」 「な、何笑ってんだよ! え、笑顔でおれを懐柔しようだなんて……だ、騙されないからな!」 「はー、そしてこいつは何なの? うるさいんだけど、風紀何してんだよ、クソ邪魔だな」 「おれの話聞けよ!」 どうしよう、目の前が混沌過ぎてついてけない。 転校生はさっき風紀委員に捕まってた、けどさっきの大声で逃げ出して、逃げ出した先がここってことか。 プレハブ小屋からそんなに離れてないから、大声を上げてたら。 「おう、盛り上がってんじゃねえか」 聞きなれた声が聞こえ顔を上げれば、今朝ぶりの陣先輩とすぐ目が合い「は?」と眉間に皺を寄せて転校生と道長くんを見てからもう一度俺を見て「は?」と睨まれた。 何でここに居るんだ、と責められてる顔に、話せば長くなるやつ、と首を横に振れば「わ、風紀委員長!」と転校生が声を張り上げる。 見れば陣先輩を見て顔を赤らめてるので、陣先輩を見れば首を横に振って嫌そうな顔をされた。
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