校舎裏ララバイ

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* 腕の中ですやすや寝る雅也を支えながら肘でスイッチを押し灯りを点け、持ち上げ下の段のベッドへと転がすがまるで起きる気配はなかった。 ベッドに座り雅也の頭を撫でてやれば自分の立場も理解せずに平和そうな顔で寝てるので、相変わらず警戒心が抜け落ちてんな。 「だから男に襲われんだよ」 あれから。 風紀委員室で塩屋と橘に事情聴取された転校生と、他の委員が沖田のお仲間から聞き出した証言を照らし合わせれば、大体沖田の言う通りだった。 どこぞの親衛隊の1人が不良グループに転校生を大人しくさせろと依頼、報酬は何でも良いと切り出したことで欲求不満な猿みてえな奴ら意気揚々と謹慎中の部屋まで行って転校生を拉致、暴行に及ぼうとしたが激しく抵抗され失敗。 転校生は無傷でその後風紀から逃走した先に、偶然雅也を襲ってる沖田を発見、と言うことだ。 「チッ……」 そこでさっき塩屋と別れる時に言われた言葉を思い出す。 『子羊ちゃん、キスされただけと頷いたようだけど、実際はどうなんだろうね? 襲われた側と言うのはあまりそう言うのは言いたくないものだろう? 服を着ていたのだって暴れ馬ちゃんが乱入し離すことが出来たから脱がされたのを着たタイミングで小林が駆け付けただけなのかも知れない──あくまで可能性の話、だけどね』 ご丁寧にウインクをしながらエンジェルの元に向かった塩屋の言葉に苛立ちながら撫でたままの雅也を見下ろせば、怖がった様子なんて1つもねえ。 それなら、こないだハグした時の方が顔色は悪かったぐらいだ。 ……あの、キスマが濃くなって帰ってきた日の方が、だ。 チッ、とまた舌打ちが溢れる。 「別に、あんたが誰とどうなろうと、どうでも良いんだ」 誰とキスしようが、誰と体を重ねようが、俺の休息と安眠を妨害しなきゃどうだっていい。 どこで誰とよろしくしてもどうでもいい。 ただ、1つだけ気に食わねえことがある。 「他の男に尻尾振ってんじゃねえよ」 雅也を可愛がって癒されるのは飼い主の俺だけで良いだろ、ペットが他人に見知らぬうちにベタベタ触られ餌付けされ懐くのは気に食わねえってもんだ。 わざわざ挑発するように目の前でキスした沖田もだが、上塗りするようにキスマ濃くして来た奴……大体見当はつく。 顔が良い男に迫られて懐くなら、俺で十分だ。 「……」 塩屋の言葉を再び思い出し、おもむろに服に手をかけて上着を胸の上まで捲ればやや鍛えられた上半身が晒された。 特に何も痕がないことを確認し、胸の突起に触れるが寝てる雅也が反応することもない。 胸は特に弄られた経験はなさそうだ、普通に生きてれば乳首弄られて感じる体験はしねえな。 「はあ、何で俺がこんなことしなきゃなんねえんだよ」 寝てる男触って何が楽しいんだ、と雅也の肩を掴み転がせて俯せに体勢を変えさせて下着ごと掴んで膝下まで下ろした。 ケツ丸出しの姿に、やや罪悪感を覚えながらそのまま触れ押し広げ孔の存在を確認して指が止まる。 「キツそうな孔じゃねえか、処女だろ」 男とヤったことはねえが立場上現場は見ることが残念ながら多い、被害者の男の犯されたケツを見なきゃなんねえこともあったマジで苦行だった。 今では塩屋が率先とやってくれるお陰で見なくて済んでるが、さすがに可愛がってる後輩のケツの孔に指突っ込んで広げ見るのは気が引ける。 「ん……」 「もうちょっと待ってろ」 ケツに触れたままなのが嫌なのか身動ぎ仰向けになろうとする雅也の肩を押さえ、さっさと確認して終わらせてやるか。 このまま指を捩じ込む訳にもいかねえし何か潤滑剤になりそうなモン別にねえんだよなと思いかけ、先日強姦事件か何かで証拠没収したローションが机の引き出しに入ってるのを思い出した。 「……」 一旦雅也から離れ机の引き出しを引けば、ゴロッと出てきたローションを掴み、ベッドに戻ってその蓋を開ける。 手のひらに出し、指に馴染ませてから雅也のケツを押さえて孔に宛がった。 ぬるついた感触のまま1本すんなりと入った瞬間、「……ん、」と雅也の体がビクリと動く。 「……な、に……」 俯せになった状態から少し上体を上げ、目を擦りながら振り向く雅也と目が合った。 「じ、ん……せんぱ……」 「おう、雅也」 「おはよう、っす……? っ、ぁ、何……っ、ん、」 「いや、まだおやすみしてろ」 ズル、と指を突っ込みくの字に広げて広がる孔を素早く見るが特に挿れられて中が擦れてる訳じゃねえ。 犯された感じもねえな、と指を一気に引き抜けば、「っ、は……!」と小さく喘ぐ雅也の頭を突っ込んでねえ方の手で撫でる。 「せんぱ、い……マジで、何……」 「夢じゃねえの? 雅也は欲求不満なんだろ」 「欲求……不満……」 適当なことを言いながら寝惚けてる雅也に服を着させてやろうと伸ばした手をぎゅ、と握られた。 「欲求不満、なら……夢で先輩と、エロいこと……するんすか……?」 「……は、」 「……すう」 ぼけっとした顔でトンでもねえこと言ったまま再び寝息を立てる雅也に、そこで寝んのかよ、とキレながら見下ろす。 俺がやったことだが、ほぼ全裸に等しい。 全裸で無防備に寝てる男なんて、この寮で雅也くらいなもんだ。 「少し躾が足りねえか?」 ペットの躾は飼い主の役目だ、警戒心がねえなら持たせてやるように躾けてやるしかねえ。 だがせめて寝てる時はマジで気が引ける、服の着させて仰向けの体勢を戻してやれば、何事も無さそうに寝る雅也と顔を覗き込む。 そこでまた沖田に目の前でキスされたのを思い出し、無性に苛ついた。 「……寝るか」 ハグで癒されたかと思ったが、苛立つことが多く馬鹿馬鹿しいと離れようとした。 が、雅也と握られたままだと言うことに気づき、離すのは簡単な力のそれと、すやすや寝る顔を見て頭を掻いてから隣で横になる。 「あんたが離してくれねえから、自分のベッドで寝れねえじゃねえか」 仕方ねえ、と思いつつ、今日だけ特別だからな、と言い訳じみた添い寝を決行した。 雅也の腰に手を回して抱き寄せれば、さっきまで感じた苛立ちが緩和したので、ハグは万能じゃねえかと目を瞑る。 その日、久々に睡眠の質が良かった。 *
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