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目を覚ませば目の前にイケメンのご尊顔がドアップであった。
「う、お……!?」
思わず仰け反り離れようとするけど腰にガッチリと腕が回ってて動けない、何だこれ。
思わず眼前の綺麗な寝顔のイケメン、こと陣先輩の胸元に手をつく。
よく見たらこの人、制服のまま寝てるぞ。
「先輩……、陣先輩、朝っすよ」
「ん……?」
「起きて、マジで起きて、で離して……」
「……雅也」
パチ、と開いた目と視線が合い、すぐに目が覚めたのかニッと笑みを浮かべられた。
「朝から元気だな」
「そりゃ元気にもなるわ、何で先輩俺のベッドで添い寝してんすか」
「ん」
片手が持ち上げられ、その手が先輩の手首を握ってることに気づく。
「え……もしかして、掴んで……?」
「そー、あんたが離してくれねえからそのまま寝るしかなかったんだぜ?」
「うわ、すんません。だから陣先輩制服で寝てたのか、マジですんません」
「おう、お陰で皺だらけよ」
ポンポンと頭を撫でてから起き上がり、先輩はそのままベッドから降りてくので追いかけるようにベッドから這い出た。
ら、ゴトリ、とベッドから何かが落ちる。
何か液体の入った容器のようなものだ。何だこれ。
とりあえず俺の物じゃないから先輩の物かな、と無言でローテーブルに置き、ぐちゃぐちゃの制服をハンガーに掛けてる陣先輩に近づいた。
「俺、あれ持ってますよ。スチームアイロン、ハンガー掛けたまま皺伸ばせるやつ。使いますか?」
「マジか、天才じゃねえの。貸してくれー」
「うっす」
たまたま荷物にスチームアイロンが入ってたので本間さん辺りが一緒に入れてきたんだろうなあ、身だしなみくらいは整えた方が良いと言うことか、と思ってクローゼットに入れといたのを取り出して渡せば「ありがとな」と嬉しげにまた頭を撫でられる。
陣先輩は俺の頭をよく撫でる、マジでペットか何かだと思ってんだろうなあ。
いつもより早く起きてしまったけど、陣先輩的にはちょうど良かったみたいで皺伸ばしてシャワーに向かったのを見送ってから謎の容器が放置されたローテーブルを前に座りスマホを弄りゲームをしながら待つことにした。
準備して陣先輩と部屋を出、朝食はコンビニで調達でもするかと話しながら2人で階段に向かえば、上から降りてくる人物と鉢合わせになる。
「あ」
「うげ」
「……は?」
上から俺、陣先輩、そして俺たちを見て眉間を険しくした才賀先輩だ。
まさかこんなとこで才賀先輩に会うとは、と思いつつ、最後に出会った生徒会での出来事を思い出しあまりの気まずさに一歩引けば陣先輩が代わりに一歩前に出た。
「よお生徒会長殿、朝早くからどーも」
「小林、何故お前が凩と居る」
「挨拶も出来ねえ? 居て悪いことあんのかよ、同室の雅也、と仲良く登校してるだけで」
「……何?」
やけに、同室の雅也、を強調して言った陣先輩は俺の横に並ぶように下がり肩に腕を回してくる。
ぐいっと引かれ腕の中に収まる形になってしまい、「うわ、なんすか」と離れようと試みるがびくともしない、知ってた。
「陣先輩、ちょ、苦しいんすけど……」
「……は」
「おい雅也見てみろよ、才賀の顔ヤバくね? 全校生徒がときめくイケメンも形無しじゃねえか、やっぱ俺の方がイケメンだよなあ」
今日も自分に自信がある陣先輩はいいんだけど、ほんとだ、才賀先輩の顔が表情落としてきたのか無表情と言うか死んでる……めちゃくちゃ怖。
「さ、才賀先輩……体調、とか、悪い……?」
ニコニコ笑う人でもないけど、会ってからこんな顔が能面に近づくのは怖すぎてもしかして体調不良なんじゃと声を掛ければ、「……いや」とやたら溜めた返事が返ってきた。
「何故、1年の凩と3年の小林が同室なのかと……」
「え? 何かおかしいんすか?」
「普通は、同学年と同室なことが多い」
「それは、雅也が転校生だからじゃねえの? 部屋、空いてねえんだから、1人の奴と同室になんだろ」
「そなんすね。確か、1人の人は少ない、んでしたっけ」
「そ。教員に言われて同室になっただけで俺は別になーんもしてねえんだが、何か言いたげな才賀生徒会長殿は、文句なら俺以外にどーぞ?」
才賀先輩とは真逆にめっちゃ機嫌が良いのかニコニコ笑う陣先輩は「雅也、行こうぜ」と肩から手を離してポンポンと頭を撫で階下を顎で差す。
三浦から生徒会には近づくなって言われてるし、先日のことがあったしなと「じゃ」と才賀先輩に頭を下げれば「凩」と声を掛けられたので顔を上げれば、さっきまでの能面はどこへやら、余裕そうな笑みを投げ掛けられた。
「そんなに意識されると困るんだが?」
「へ……し、してないっすけど!?」
思わずこないだの件を思い出して声がひっくり返ってしまえば、クスッと才賀先輩は楽しげに笑う。
「そうだったか、それはすまない。意識してるのは俺だけだったか」
「え」
「お前のことばかり考えてるのは、俺だけみたいだな?」
「っ、そ……!」
「雅也、あんた才賀のこと考える暇なんてあったのかよ」
手首を掴まれぐいっと引かれると眼前には陣先輩でいっぱいになってしまい、いやめちゃくちゃ近い、さすがにこんなとこでハグは勘弁だと胸元に手を置けばハグされる気配はなかった。
「俺と居るのに、俺のこと忘れるなんてどういう了見だ?」
「わ、忘れてないすよ」
「だよな? 才賀のことばっか考えるなんて無理に決まってんだろ」
ハッと鼻で笑い手首を引かれてそのまま階段を降りる陣先輩についてくしかなく、振り返れば才賀先輩はまた笑みを消して見下ろしてたのが怖すぎてすぐに前を見る。
もしかしなくてもこの2人、めちゃくちゃ仲悪かったりするのか?
イケメン同士が仲悪いなんて、イケメンも大変だなと適当なことを考えてるうちにコンビニに着いた。
スッと手首から手が離れさっさと中に入ってく陣先輩のあとを追う、何か才賀先輩と別れてから一言も喋ってない気がする。
「じ、陣先輩……」
「あ?」
飲料コーナーに止まった陣先輩の隣に並べば、やっぱりどこか不機嫌な態度に俺は手に取ったものを先輩に渡した。
「これ最近出たやつ、さっぱりしててめっちゃ美味いすよ」
新発売のヨーグルト飲料を渡せば、陣先輩は目を丸くしてそれと俺を見比べ、それから「あんた……っ」と噴き出して頭をわしわしと撫でてくる。
「そーかよ、ありがとな。じゃ飲んでみっか」
「うっす」
少し機嫌が直ったらしい陣先輩に良かったと笑えば、陣先輩はそんな俺を見てスッと手を伸ばして顎の下をスルッと撫でた。
「お、わ……何」
「ん? 何色映えっかなと思ってな」
「何色、とは」
「何だと思うよ」
「や、わかんないすね」
首を横に振れば、「そーかよ」と手を離して飲料コーナーをあとにする陣先輩を見送ってから顎の下を押さえる。
少しぞわぞわした、何だったんだ。
朝食を買って教室で食べると陣先輩と別れてから教室に向かいながら、そう言えば来週から連休あるから家に帰……れないけど、じいちゃん家に泊まるとか出来んのかな。
「あとで猛くんに聞いてみよっかな」
昼に猛くんと食べる約束するかとスマホを取り出せば、タイミングを計ったように連絡を取ろうとした猛くんから着信が。
「もしもし、猛くん? めっちゃタイミングいいね、俺今連絡しようと」
「知ってるッスよ」
「おわ!?」
耳元から聞こえるはずの声が真後ろから返ってきて振り返れば電話の相手が立ってて、スマホと猛くんを見比べる俺に「偶然通りかかったら前にマサ坊居たんで」と悪戯が成功したように笑いながら隣に並ばれる。
「おはよーッス、マサ坊。朝、教室で食ってんスか?」
「ん、や、結構歩きながら食うかな」
「歩き食いと歩きスマホは危ねえからやめよーね?」
「はい」
ごもっともだと頷けば、猛くんは「それで」と首を横に捻った。
「何聞きたいんスか? 来週の帰省とか?」
「あ、そう。それ。じいちゃんとこなら行っても良いかなって思うし、じいちゃんが忙しいなら本間さん、猛くん家に泊まっても良いかなって」
「うちならマサ坊は大歓迎ッスけど、多分連泊は無理ッスねー」
「本間家も忙しい?」
じいちゃんが忙しいなら本間さんも忙しいかと肩を落としかければ、「や、うちじゃなくて」と返される。
「学校行事、あるんスよ、来週」
「学校、行事?」
「そ。新入生歓迎会ってのがね、多分今日とかに説明あると思うけど、言うなれば山でお泊まりキャンプがあるんスよ」
「え? ……ここ、山じゃん? 山で暮らしてんのに、更に山でキャンプすんの? 何で?」
「だーよね、わかるわかる、おかしいんスよ、この学校。ちなみに場所は旧校舎の方がある場所だから、ここから地味に遠いッスね」
「え、それさ、全校生徒強制参加系?」
「強制参加系、特に1年は絶対のやつ」
「……風邪とか引いても?」
「さすがに休めるとは思うけど、マサ坊わざと風邪引いたら怒るからね?」
昔からわざと体調崩そうとすると鬼のように叱ってくる猛くんとの思い出が走馬灯よろしく浮かび、「健康に気を付ける」と約束を交わす。
「そっか……キャンプ……」
「さすがに他にも休みあるから、そのあとは一緒に帰省しよっか、マサ坊。親父にも聞いておくからうちに泊まってね。それにほら、地元のお友だちとも連絡取れてねえんスよね?」
「そうなんだよ、スマホ変えてから取れてない」
「じゃあ決まりだ、一緒に帰省ッスよ」
「やった、楽しみ」
キャンプは死ぬほど面倒臭そうだけど地元に1回でも帰れる楽しみがあるなら生きてける、じいちゃんの顔も見たいし楽しみだと猛くんと話しながら登校した。
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