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歓迎会≠キャンプ
連休初日の朝、俺は着替えとかを入れたリュックを背負い晴れ渡る空に向かって両手を広げ大きく息を吸ってそれを吐き出した。
「はー……キャンプ怠すぎ」
「清々しい顔と声で心の声が漏れてるぞ」
隣の三浦が呆れた顔で首を横に振る。
現在朝の8時、校庭に全校生徒がクラスごとに集まって簡易説明やらのあとそろそろ出発、と言うタイミング。
新入生歓迎会と言う名の1泊2日の春先にキャンプと言う正気の沙汰を疑う学校行事だ、と冊子をぱらぱらと捲った。
ちなみにこの冊子はこないだ双葉先輩の手伝いをした時に俺が綴じたやつなので、半数以上の生徒の手元にあるのかと思うと感慨深いなと適当なことを考えるけど、どう考えてもキャンプは怠すぎる。
「凩と班分かれたなって言おうと思ったけど、そもそも同じクラスで同じ班になれなかったんだったよな」
「各学年2、3人ごとで1つの班なんだっけ。少人数制なんだ」
冊子を見る分にはアルファベットで別れたコテージに2班ごと宿泊する、とか書いてあるので、6人か最大9人くらい泊まれるコテージがいくつか完備されてるらしい。
また金が掛かってるな、と冊子を仕舞いつつ、キャンプ場所へと思い思いぱらぱらと歩き始めた流れに三浦たちと共に歩き出す。
「凩くん、何班だったっけ」
「ん、俺確か……J2、だっけか」
「あ、僕J1だよ。同じコテージだね」
「マジ、良かった」
森と同じコテージなら良かった、知らない奴ばっかだったらどうしようかと。
同じゲームしてるし、森とは比較的話題があるから気まずくならなくて済みそう。
「と言うか、旧校舎まで歩くんだっけ。旧校舎にコテージいくつもあるんだ?」
「そうみたいだな、ここの山ってマジで広いよな。中等部もあるし」
「旧校舎まで数キロ離れてるらしいから、はあ、僕みたいなインドアにはキツい……」
山なりに歩くのは確かにキツいかも、俺的には筋トレになっていいけど確かに体力なかったらヤバそう。
森の荷物を三浦が持ってるのを見てから前を見ると、少し離れた場所でふらふらしてる人物が見え「ごめん、俺ちょっと先行くわ」とクラスの奴たちから別れ大股でその人物に近づいた。
「おはざっす」
「! マサくん……!」
「やっぱ双葉先輩だった、大丈夫すか?」
周りを見ると何人か居るけど別に双葉先輩と付き添いって訳ではなさそう、親衛隊とかじゃなくて純粋に同じタイミングで歩いてるだけの人たちなのか、「あの生徒、生徒会に話しかけてるよ」「親衛隊じゃない?」と言う囁きが聞こえてくる。
「双子のお兄さん、だっけ、一緒じゃないすね」
「一葉は先に行ったよ、ボクさっきまで他にやることあったから行っててってお願いしたんだ」
「そっか。結構山道、キツくないすか?」
「うん、ちょっと……でもマサくんとお話してから楽しくなってきたよ。誰かと一緒だと楽しいね」
「なら良かった。双葉先輩と一緒に行ってもいっすか?」
「いいの? ボク、生徒会だよ?」
「あ、そうだった……じゃああれだ、こないだの双葉先輩の親衛隊ってことでここは1つ」
延長ってことで、と笑えば、双葉先輩は目を丸くしたあと「あはは」と綺麗な顔を綻ばせた。
「キミは本当に面白い子だ、うんいいよ……ボクだけの親衛隊ならいつでもなって?」
きゅっ、と伸ばされた手に服の袖を捕まれ、嬉しそうに笑う双葉先輩に、特に他の役員の親衛隊に入るつもりないので、おけっすと頷いておく。
つまり、双葉先輩の手伝いをする権利みたいなものだと思ってるので、他の役員の手伝いしたいかと言われたら邪魔になりそうだしな。
「マサくん、班どこ?」
「J2っすね」
「あ……違った……ボク、E1班……生徒会とか風紀とかは、バラけてたはずだから、……あれ、J2? マサくんの班に生徒会居たような気がする」
「え、マジすか? 俺、生徒会接触禁止令出てるんで困ったな」
「ボク以外のね。一葉はB2だったから……誰だったかな、ごめんね?」
「いや、大丈夫っす。居るってわかるだけでも」
双葉先輩とそのお兄さん以外の生徒会ってことは、才賀先輩か神崎先輩か、副会長だっけか、の誰かか。
出来れば才賀先輩は気まずいから才賀先輩じゃなきゃ良いな。
それから話しながら暫く歩いて、ようやく山道の向こうに開けた空間が見える。
「は、着いたー……」
双葉先輩の安堵の声にお疲れ様っすと頷き、古いと言っても立派な校舎が見える以外はコテージがいくつか並んでるマジでキャンプ場に着いた。
双葉先輩と別れ、どうするんだとキョロキョロしてると、のしっと肩に重い何かが乗る。
「遅かったな、雅也」
「あ、陣先輩。朝ぶりっすね。先に来てたんだ」
俺の肩に腕を乗せ「来てた」と言いつつ疲弊感を見せないところ、山道は平気だったみたいだ。
「先輩は班、違うんすか?」
「あーやめろ、班の話はすんな」
「もう班の人わかるんだ」
「一応風紀委員長だかんな全部の班の面子くらい把握してあんだよ。荷物、とりあえず分け振られてるコテージに置いてきたら会えるんじゃね。雅也のとこは向こうの方だ」
「あざす」
荷物を置いて全員集まったらとりあえずこの開けた場所に集合し直すらしい、そう言うとこは学校行事感あるなと陣先輩と別れ向かってると「凩くーん」と森が駆け寄ってきた。
「先に着いてたんだね、一緒にコテージ行こ」
「悪いな、ちょっと知り合いが1人で歩いてたから話し相手にと思ってさ」
「そんなとこだろうと思ってたけど、三浦くんが拗ねてたよ」
「三浦は何かいつも拗ねてるな」
「大体凩くんと都合が合わないと拗ねてるね」
談笑しながらアルファベット順に並ぶコテージを歩いてれば、ようやくJと書かれたコテージに着く。
なんと言うか、でかいなこのコテージ。
「2階建てなんだって、コテージ。上が1班で下が2班ってなるように。ほら、ここから階段登って上に行けるんだよ」
「無駄に金が掛かってるじゃん、やば。と言うことは俺はこのままこっから入っていいんだ」
「うん、僕上に行って荷物置いてくるね」
「おけっす。俺も置いて何事もなければすぐ出てくるわ」
「何事かある前提なんだ」
横の階段から登ってく森を見送ってから目の前のドアに近づき、ドアノブを掴んだ。
これで才賀先輩と同じだったらどうするかな、意識しないようにしたいけどな、と思い捻って開ければ。
「うお」
目の前には壁が。
いや、壁じゃない、人の背中だ。
「え、背中……何、えっと、ドア前に誰か立ってる、んすよね……え、あの、は、入りたいでーす……?」
ぺちぺちと背中を軽く叩けば、のそっとした緩慢な動きで壁もとい背中が横にずれ、空いた隙間から中に入れば、広々とした一室に左右と正面奥にベッドが3つずつ置かれ、中央にテーブルセットが置いてある部屋に金が掛かってると感動しつつ退いた横を見た。
ボサボサの黒髪、鼻くらいまで伸びて目が隠れて読めない表情、と言う長身の不審者みたいなヤバそうな人だ。
「えっと……J2班の、人、っすよね……?」
コクッ。
頷きが返ってくる。なるほど。
あんま喋りたくないタイプの人か、なら変に絡まれるのは嫌だろうけど、一応他に人居ないから聞きたいことだけ聞いとくか。
「荷物って適当に壁の方に置いといていいんすかね? 置くとこ決まってます?」
首を横に振って、指差すと角に鞄がポツンと置いてあるので、うーん?
「決まってないけど、あそこに置いたってことすか? じゃあ俺のも一緒に置いてもいい?」
コクッ、とまた頷いたので、大きいけど素直な子どもみたいだな、と雑な感想を抱いて同じところに置くと、「やー、足腰鍛えられていいな!」と大きい声が近づいてくるので誰か来るみたいだ。
この声、どっかで聞いたことあるな。
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