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どかどかと言う足取りで入ってきた人物を見て、お、と声を上げてしまう。
「部長」
「ん、おー、凩! 同じ班か!」
ははは、と声を上げながら部長は何かを引き摺りながら入ってきた。
何だ、人だわ。
「ほら、着いたぞ神崎。お前が同じ班だから担いでけって頼んで来たんだろ」
「うへ……むっくんマジ乱暴過ぎー、引き摺るとかないわ、オレの親衛隊に刺されて欲しい」
「うわ神崎先輩」
「え、誰オレ見てうわとか言うの!? って、マーくんだ!」
部長に首根っこ掴まれて引き摺られながらコテージに入ってきた神崎先輩は俺を見て目を輝かせ、部長の横で立ち上がる。
生徒会って神崎先輩だったのか、この人ちょっと絡みたくないんだよなあ。
「え、何々、マーくんもJ2班なの? やった、じゃあさじゃあさ……ね、むっくん、手放してくんない?」
「お前、うちの部の後輩を口説こうとしてるんだろ」
「仲良くなるだけじゃーん、新入生歓迎会だよ、1年生と親しくなる為の行事なんだけどー」
「部長と神崎先輩って仲良いんすね」
「ん、まあ、中学ん時同じクラスだったよしみでな」
そなんすね、と適当に頷く俺、の横を見て部長は「おお」と目を細めた。
「相内か、お前また背が高くなったなあ、バレー部入らないか?」
俺の隣に居た長身の人物に声を掛け、首を横に振られるのを見て「絶対逸材なのにな」と笑ってから俺を見て顎で彼を差す。
「凩。そいつは2年の相内和秋、見ての通りあんま喋んないけど悪い奴じゃない」
「相内、先輩すね。よろしくっす、俺、1年の凩雅也って言います」
相内先輩と言うらしい生徒に自己紹介すると、コクッと頷きが返ってきたので、何となくわかってきた。
良ければ頷いて悪ければ横に振る、ね。
そのまんまだ。
「この班はねー、各学年2人ずつの6人だよ」
と神崎先輩が出会ってから初めて有益なことを言ったので、ちゃんとしたことも言えるのかと感心してると「じゃああと1年と2年、1人ずつか」と部長が納得しながら手を放して鞄を俺が置いたとこに置いたタイミングで「失礼します」と真面目そうな声が室内に響く。
入口から入ってきたのは、前に陣先輩に声を掛けてきた真面目そうな人だ。
「げ、風紀委員」
「こんにちは、神崎会計」
神崎先輩に頭を下げてから中に入り、部長と相内先輩に頭を下げ、そして俺の前にやって来て右手を差し出してきた。
「ん?」
「こんにちは、凩雅也くん。自分は風紀委員、2年の橘辰希と申します。よろしくお願い致します」
「え、あ、はあ、ご丁寧にどうもです……?」
橘先輩に丁寧に自己紹介され何なんだととりあえず握手を交わしてから、スッと離れてく姿を神崎先輩がやけに居心地悪そうに見てるのが見える。
「何これ、もしかして生徒会の班に風紀入れてんの?」
「全てではありませんが」
「えーオレ、風紀嫌なんですけどー」
こないだ陣先輩と才賀先輩が仲良く無さそうだったと思ったけど、もしかして生徒会と風紀委員会って仲悪かったりするのか?
今も神崎先輩が嫌そうだし、そんな神崎先輩をゴミでも見るかのように冷めた目で橘先輩が見ててギスギスしてんなあと思いつつ、部長に「俺、外出てもいっすか?」と森に荷物置いたら合流すると言ったことを思い出して聞けば、「そうだな、集合もあるし出るか」と返ってきたのでよしといち早く出ようとしたドアから誰かが入ってきた。
金髪だ。
「ああ?」
入ってきた金髪は不機嫌そうに俺たちを見渡し、そして神崎先輩を見て「チッ」と舌打ちをする。
「下半身野郎じゃねえか」
「あれ、ヒマワリちゃんじゃーん」
「おいてめえ、ヒマワリはやめろつってんだろ!」
「ヒマワリ?」
「ああ!?」
「うお」
ヒマワリと聞き返しただけなのに弾かれたように凄まれてしまい、一歩引くと同時に俺の前に橘先輩が視界から遮るように立ち、突然の割り込みに目を丸くして「チッ」と舌打ちを上げる金髪に背を向けて橘先輩がこっちを振り向いた。
「大丈夫ですか、凩くん」
「え、はい、大丈夫す……睨まれてちょっとビビっただけで」
「そうですか」
な、何かこう、守られた感じがして恥ずかしくなりながら、いやでもあれはビビるだろ、と不良然とした金髪を見れば神崎先輩が橘先輩を押しやるように俺の隣に来る。
「神崎会計」
「なーにもしねーしー。マーくん、ヒマワリちゃんに睨まれて怖かったねー」
「おい下半身野郎、ヒマワリって呼ぶなつってんだろーが」
「え、えっと、何でヒマワリなんすか? 頭が金髪だから?」
小声で聞けば「聞こえてんぞおら」とまた凄まれてしまうけど、神崎先輩は「名前、ヒマワリって読むから」と教えてくれる。
ヒマワリで読む、ってことは、漢字がヒマワリなのか?
「えっと、ひなたあおい、って書くってこと?」
「そう、ひゅーが、だけどね。向日葵。見た目あんなんでヒマワリとかちょー可愛い名前なんだよ、そう呼ばれると怒んのに頭黄色にしてっから仕方ねーしょ」
「勝手に教えてんじゃねーよ!」
ヒマワリって読まなくても葵って名前にしては強面だな、でもイケメンだし笑ったらさぞモテるだろうなと適当に考えながら、ヒマワリもとい日向に視線を向ける。
よく見たら、前に転校生に胸ぐら掴まれた時に一緒に居た奴だ。
転校生の友だちなのか、じゃあ。
「……何だよ、何か用かよ。そんなにヒマワリで笑いてえのか?」
「何で人の名前で笑わなきゃいけないんだよ、いいじゃん覚えやすいし、俺はヒマワリ好きだぜ」
「……は?」
「ヒマワリ良いよな、でも桜とか椿とかのが好きだけど」
適当に言えば、日向は目を丸くしてから「……花好きとか女かよ、気持ち悪ぃ」と吐き捨てて荷物を乱暴に置いて出てこうとするので、「桜とかは別に男女関係なくね?」と呟くと止まってから「そうだな……」と気まずそうに言いながら出ていった。
名前でからかわれ過ぎて話題自体嫌なのかも知れないな、多分、フォロー失敗したか。
変な空気になったコテージから出れば、外で待ってた森が「何事かあったんだね」と聞いてきたので「自己紹介のバーゲンセールがな」と答えて広場へと向かう。
「このあとって班で分かれて昼食作るんだって、カレー」
「もう昼? 自分たちで作るとか調理実習以来だわ」
「旧校舎の校庭にテント張ってあるからそっちに向かうとかだよって、コテージの先輩教えてくれた」
「そなんすね」
山の中でカレーか、キャンプっぽくなってきたな。
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