第13話 危険! 夜間作業と迫り来る危機!

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第13話 危険! 夜間作業と迫り来る危機!

 爆発音と共に、ビルが沈んでいく。夜闇の中に土煙が立ち上り、人々の悲鳴とサイレンが響く。  散らばった瓦礫の隙間を縫うように雑魚怪人達が駆け巡り、逃げ遅れた人々を物陰から引きずり出しては手酷く痛めつけてる。  そんな悲惨な現場に、勢いよく飛びこんだ人影が六つ。雑魚怪人を蹴飛ばし、時には投げ飛ばして、人々から引っぺがしていった。 「大丈夫ですか!?」 「早く逃げてください!」  中花達は一人一人に声をかけ、立ち上がらせ、そして遠くへ逃げるようにと指示を出す。酷い怪我をしている者は、まだ元気な者が肩を貸してその場から連れ出した。  怪人達は警戒し、後ろに下がっていく。そして、今回の親玉たる怪人をバックに構える雑魚怪人達と、中花達六人の戦士。二つのグループが瓦礫だらけの空間を挟んで対峙し、睨み合った。 「おやぁ? 随分と遅いお出ましだなぁ、テラブレイバーズ!」  挑発するように、親玉の怪人がニタニタと嗤いながら言う。それに対して、中花が「黙れ!」と叫んだ。 「お前達が街を襲わなきゃ、そもそも来る必要が無いんですよ!」 「しかも、土曜日の夜を狙うなんてサイッテー! 貴重な休日の夜を何だと思ってんのよ!」  白波と葉室が、中花を押しのけ額に青筋を浮かべながら怒鳴る。ただでさえ前回の戦いで発電所を壊してしまい針のむしろ状態だというのに、確実にのんびりできると思っていた休日を潰されてしまったためだろうか。機嫌が悪い。 「柊さん、奈菜ちゃん、落ち着いて! とにかく今はあいつらを倒して、早く平和な休日を取り戻さないと!」  世代が近いのか、中花がやや砕けた口調で言う。二人は頷き、六人が一直線に横並んだ。 「それじゃあ皆さん、いきますよ!」 「おう!」  中花の号令に、皆が力強く応える。腕に装着したブレスレットを天高く掲げ、そして叫んだ。 「ガーディアンブレイヴ充填! 勇気よ、守護の力となれ!」  掛け声に応えるようにブレスレットが輝き、そこから発生した帯状の光が各々の体を包み込んだ。  変身を完了した彼らは改めてポーズを取り直し、そしてお決まりとなっている台詞を今回も口にする。 「熱き焔のブレイバー! ブレイヴレッド、中花大和!」 「静かなる水のブレイバー! ブレイヴブルー、白波柊人!」 「遥かな大地のブレイバー! ブレイヴイエロー、加納拓真!」 「命宿りし木々のブレイバー! ブレイヴグリーン、葉室奈菜!」 「優しき花のブレイバー! ブレイヴピンク、世良桃子!」 「煌めく黄金のブレイバー! ブレイヴゴールド、江原鐵!」 「悪にこの世は渡さない! 勇敢なる守護者、勇輝戦隊テラブレイバーズ!」  決め台詞とポーズを決めるや否や、六人は中花の「いきましょう!」の掛け声を合図に走り出した。同時に雑魚怪人達も再び動き始め、両陣営入り乱れての大乱戦となる。  戦いながら、世良はちらりと辺りを見渡した。地面にはいくつもの瓦礫が散乱している。今さっき怪人の攻撃によって破壊された建物の瓦礫もあるが、中には前回の戦いで発生した物がそのままになっている物もある。ここに瓦礫が転がっているのは、たまたま昼間に通りかかったので知っている。  わかってはいたが、足下に瓦礫が転がっていると戦い難い。かと言って、この事で技術四班を責める事もできない。ここに未だに瓦礫が転がっているのは街の復旧に時間がかかっているからで、時間がかかっているのは前回の戦いで発電所を壊してしまった事が原因だ。半ば、自業自得なのである。  技術四班の面々には、いつも迷惑ばかりかけているな、と、ため息を漏らさずにはいられない。そう言えば、前回の戦いの直前には四班の初瀬とお茶をしようとしていた。あの時は「また今度」と言って別れたが、この調子では、その今度がいつになる事か。  これ以上技術四班に負担はかけられない。ただでさえ復旧が遅れているのに、ここで新たな復旧対象を追加したりしたら、彼らは過労死してしまうかもしれない。  これ以上建物を壊させるわけにはいかない。その想いを胸に、世良は戦う。  だが。胸の内を見透かしたわけではないのだろうが、今日の怪人達はやたらと建物に近い場所で戦っていた。武器を振り回せば壁を削り、投げ飛ばした怪人は手摺を曲げる。こんな事では、安心して戦えない。  恐らく、他のメンバーも似たような音を考えているのだろう。いつもと比べて、戦い方がどことなく大人しい。  建物に気を使いながら戦うのがこれほど難しいとは、思わなかった。いつも技術四班がしっかり直してくれていたから、これまでは気にせず楽に戦えていたのだと、実感させられる。  その後も慎重に慎重を重ね、恐る恐る戦いながらも、六人は何とか怪人を追い詰めた。怪人が巨大化し、戦士達は否応なく巨大ロボットを呼び出す事となる。  広くはないコックピットのモニターに映し出された街の様子を、六人は揃って見下ろした。慎重に戦った甲斐があって、いつもと比べるとまだそれほど大きな被害は出ていない。だが、巨大ロボットで戦い始めれば、どうなる事か……。  憂鬱な顔で外を見ていると、不意にちかり、と、何かが黄緑色に光ったのが見えた。 「今のは……」  誰かが、呟いた。いや、心の中では、全員が同じ事を思ったのかもしれない。  今の光の色は、見覚えがある。彼らが今、最も気を使っている者達が関わっている色だ。 「逆行装置の色……?」 「たしかに、今のは技術四班が建物を逆行させる時のネットみたいな奴に似た色だった……」 「けど、何で今? 技術四班は、戦闘中は待機の筈じゃ……?」  コックピットの中が次第にざわついていく。そんな中、世良が操縦席のボタンをいくつか操作し、モニターに映った風景を拡大した。何度も何度も拡大して、それはやっと何が映っているのかを認識できるようになる。 「ちょっと、あれ……!」 「初瀬さん!?」  叫んだのは、誰だったか。  そこに映っていたのは紛れも無く技術四班の、所属して一年経たない新人、初瀬誠で。そして彼は、いつもと違う装置を操り、たった一人で何かを行っていた。  先ほどの黄緑色の光を考えれば、逆行装置を使って街を直していると考えるのが普通だろう。だが、それを普通と言えるのは平時の昼間での話。夜……しかも戦闘中に作業を行っているなど、明らかに異常事態だ。おまけに、見えるのは彼一人。他には誰も見当たらない。  通常、逆行作業は二人一組で行うものだと聞いている。それは声を掛け合ってミスを防ぐためでもあるし、急な体調不良などが発生した際、速やかに対処をできるようにするためでもある。装置が大き過ぎるので、一人では操縦しきれない、という理由もあったか。  夜や戦闘中に作業をしないのは、安全面を考えると当然の事で。  だから、夜の、戦闘中に、一人で逆行作業を行っている姿は、事情を知っている者からするとかなり異様な光景に思える。 「夜や戦闘中は危ないと、講習で耳が腐るほど聞かされているでしょうに……何をやっているんですか、彼は……」  白波が呆れた声で言い、残る面々が同意するように頷く。そんな中、世良だけがハッと目を見開いて、叫んだ。 「驚くのは後! 来るわよ!」  その声に、五人は慌てて敵に視線を向けた。敵の拳が、すぐ眼前まで迫っている。皆急いで操縦桿を操り、ロボットは緊急回避を行う。その際、公園を一つと橋を一基、足を引っ掛けて壊してしまった。人的被害が出ていなければ良いのだが……。  一同の視線が、つい初瀬がいるであろう方角に向く。公園はわからないが、橋は生活に必要な建造物だ。早く直さなければならない物である。これでまた、技術四班はへろへろになりながら街の修復に追われなければならなくなってしまうのだろう。  技術班のありがたみを肌で感じたばかりだというのに。また、彼らの負担となる事をしてしまった。悔しさと情けなさで、六人はメットの中で、渋い物を噛み潰したかのような顔になる。  その顔が、再び驚きに満ちるまで、それほどの時はかからなかった。 「ちょっ……あれ!」 「何考えてんですか、初瀬さんは!」  黄緑色の光が、少しずつだがロボットの方に近付いてくる。まだ戦闘は終わっていないのだ。近付いたら危ない事ぐらい、子どもでもわかりそうなものだというのに。  六人の憤りを知ってか知らずか。誠は辺りの小さな建造物を直しながら、どんどん距離を縮めてくる。  直しているのは、公園にあるような公衆トイレだとか、待ち合わせによく使われる銅像だとか。大きくても、精々工事現場にあるプレハブの事務所程度。  装置が小さいから、小さな物しか直せないのだ。だが、どれも小さいが、大切な物だ。  それらを直しながら、誠は故意にロボットへと近付く。街を直す姿を、戦士達に……世良に見せるために。街はこうやって技術四班が必ず直すから、後顧の憂いなく戦ってほしい、という想いを込めて。  だが、その想いを伝えるには、彼の行動はあまりにも遠回りでわかり難過ぎた。  ……いや、恐らく伝わってはいる。だが、それでも見ている側はただひたすらハラハラ冷や冷やしながら、その様子を見守っている事しかできないわけで。そんな状態だから、当然戦いに集中する事ができない。  結果として、敵怪人からパンチの連打を食らう事となってしまった。ロボットの巨大な体が傾ぎ、街の中に倒れ込む。当然、いくつもの建造物が壊れる。怪我人がいない筈が無いだろう。  最悪の状況だ。  瞬時に、誠はそう悟った。そして、ほんの少しでも、と言わんばかりに、ますます逆行作業に精を出す。  ……逆行作業を行う時は、黄緑色の光のようなネットを使用する。暗闇の中で、黄緑色だ。しかも、この巨大化戦の影響で街の中は殆どの家屋、施設が停電。光っているのは、誠の逆行装置のみ。当然、目立つ。  戦士達から見た時だけ目立つ、という事なら別に問題は無い。だが、そんな都合の良い目立ち方をするわけがなく、敵もその存在に気付いてしまった。  敵が、攻撃の照準を誠に定める。誠は、直す事に夢中で気付いていない。 「初瀬さ……っ!」  詰まったような、世良の叫び声。その声は、誠に届く事は無く。  そして、敵怪人の巨大な拳が、誠に向かって振り下ろされた。
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