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第6話 変身! 勇敢なる守護者!
ビルが破壊され、人々が逃げまどい。そして、異形の者共が我が物顔で街中を闊歩している。
妖怪とも異星人ともキメラとも、見た者によって何とでも呼べそうな姿。誰にでも通じるように言うならば、化け物。それが、日本を……この街を狙う敵組織が毎度の如く生み出しては送りこんでくる怪人だ。
人々をあざ笑うかのように街を破壊し、人々を傷付け、地も砕けよとばかりに花を踏みにじる。そして今は、逃げ遅れ転んでしまった、幼い子どもに向かってその鋭い爪を振り下ろそうとしていた。だが、爪がまさに振り下ろされようとしたその瞬間。
「待てっ!」
鋭い叫び声。そして、この場に駆け寄る複数の足音が聞こえた。
足音の数は、全部で六つ。重い足音も、軽い足音もある。それらがほぼ同時に止まり、ザッと地を踏みしめる音が妙に大きく響いた。
「ほう……やはり来たな」
しゃがれた声で、怪人が楽しそうに言う。それを睨み付けて、中花大和を初めとする六人の戦士達は構えのポーズを取った。
「これ以上、この街を壊させたりはしないぞ!」
中花の言葉に、怪人がゲッゲッゲッと気味悪く笑う。
「その言葉、これまでにもう何回言ったかな? それに、お前達だっていつも最後は街の破壊に加担しているだろうに」
非常に痛いところを突かれ、中花はグッと言葉を詰まらせた。
「それは……まぁ、その……そうかもしれないですけど……」
口調からもみるみるうちに自信が消え失せていく。根暗な事に定評のあるゴールドの江原も、何やら口先でぶつぶつ言いながら俯いている。しかし、声が小さすぎて何と言っているのかさっぱりわからない。
「何を言いくるめられてるのよ、何を!」
ぺしん、と良い音を立てて、世良が中花と江原の頭を引っ叩いた。「あいたっ」という小さな悲鳴を発しながら、中花と江原が振り向く。
「あいつらが街を破壊している事に変わりは無いし、そもそもあいつらが暴れたり巨大化したりなきゃ私達もロボット出動させて戦う必要無いでしょ! 結局あっちが何もしなきゃ問題無い話だって事、わかってる?」
「あ」
「そうか……ですよね……うん……」
納得したのか二人は頷き、改めて戦士達は横一列に並んで構えを取った。さぁ、ここからが見せ場だ。
「桃子姉さん、ありがとうございます! 皆さん、いきますよ!」
「おう!」
中花の号令に、皆が力強く応える。腕に装着したブレスレットを天高く掲げ、そして叫んだ。
「ガーディアンブレイヴ充填! 勇気よ、守護の力となれ!」
十人に訊いたら十人が「ダサい」と答えるであろうこの言葉が、変身するためのキーワードだ。あまりにあまりなワードセンスだが、考えたのが普段クリエイティヴな仕事とは無縁のお役人なので仕方が無いと言えば仕方が無い。
あまりにも不評であるため、次に台詞が変わる時には全国から公募しようかという話まで出ている。次が無いのが一番なのだが……。
ブレスレットが輝き、そこから発生した帯状の光が各々の体を包み込む。初めてこの様子を目にした時に「ブレスレットの開発者は魔女っ娘アニメが好きなのか?」と呟いた者があると言うが、そこはツッこんではいけない。
光が次第に集束し、収束する。そしてそれが終息した時、六人はそれまでの私服ではなく、防火防水耐熱機能と抜群の通気性を兼ね備えた、高防御力のパワードスーツに身を包んでいる。勿論、顔はメットを装着して隠せる仕様だ。
変身を完了した彼らは改めてポーズを取り直し、そしてお決まりとなっている台詞を口にした。
「熱き焔のブレイバー! ブレイヴレッド、中花大和!」
「静かなる水のブレイバー! ブレイヴブルー、白波柊人!」
「遥かな大地のブレイバー! ブレイヴイエロー、加納拓真!」
「命宿りし木々のブレイバー! ブレイヴグリーン、葉室奈菜!」
「優しき花のブレイバー! ブレイヴピンク、世良桃子!」
「煌めく黄金のブレイバー! ブレイヴゴールド、江原鐵!」
全員が名乗り、そして一糸乱れる事無く全員で同じ動きをする。ここが、一番の見せ所だ。
「悪にこの世は渡さない! 勇敢なる守護者、勇輝戦隊テラブレイバーズ!」
蛇足だが、勇輝は「勇気が輝く」の略語だそうである。次があるなら、本当に名前は公募で決めた方が良い。
それはさておき、名乗りを終えた六人はポーズを解き、怪人に向かって駆けだした。怪人は勿論、下っ端の雑魚怪人を大量に呼び出す。辺りはあっという間に、大乱闘の場と化した。
葉室が雑魚怪人に飛び膝蹴りを喰らわせ、加納が手当たり次第に敵の足を払う。白波は固有武器の弓を使って物陰からどんどん雑魚怪人の数を減らしていく。そして、江原の固有武器が特大の炎を噴いてほとんどの雑魚怪人を一掃した。
邪魔な雑魚怪人が粗方片付いたところで、四人は本命の怪人へと駆けだす。そこでは既に、中花と世良が戦闘中だ。
世良のハイキックが怪人の顎に決まり、三角跳びで怪人の上空を陣取った中花が固有武器の剣を勢いよく振り下ろす。剣は怪人をから竹割にこそしなかったものの、かなりのダメージを与えた。
怪人はふらつき、後ずさる。更にブルー、イエロー、グリーンにゴールドが迫りくるのを視認すると、潔くその場から逃げ出した。
「あっ、待て!」
中花、世良、残りの四人の順番で、脇目もふらずに怪人を追い掛ける。恐らく、勝負がつくのは時間の問題だろう。あと一撃か、二撃も与えればあの怪人は倒せる。
そして、倒したら……戦闘の第二幕が始まるのだろう。敵幹部の手によって、怪人が巨大化する。巨大化した怪人は所かまわず暴れ回り、街を破壊していくのはいつもの事だ。
だから、彼らは巨大ロボットを呼ぶ。それを駆使して、巨大化した怪人と対峙するのだ。
だが、敵が市街地で暴れている以上、ロボットも市街地で戦わざるを得ない。巨大なロボットが市街地で戦えば、結局正義の味方であるはずのロボットまでもが街を破壊してしまう。そして、技術四班の仕事が増えるのだ。
その事が頭を過ぎったのだろうか。怪人を追い掛けながら、世良は密かにため息をついた。
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