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はじまり
病棟の看護師が慌ただしく病室に向かい、誰かの喀痰吸引している際のブーンて言う音を、詰め所へと向かう病棟の廊下で聴きながら、私はカルテ記載のために病棟へと向かった。
ほとんどが電子カルテになってはいるが、重要な書類は、同意書や契約書類は、未だに紙面で行っている。
それは、確かに物的証拠として残る部分もあるのだが、命のやり取りと言う大変繊細なものを扱う意味から、データバンクではセキュリティ上にアクセスさえ出来れば不特定の人物に見られてしまう危険性があるからと言う問題から、この病院ではそうやって個人情報を保護している。
とはいえ、データバンクに、それらの書類をスキャンして保管しているのだから、その意味もどうも曖昧に感じてしまう。
いずれにしても、真の災害が発生した時には、電気と言うのは、本当に必要な手術場や人工呼吸器等に集中するだろう。
そう考えれば、結局私たちの筆記具と言うのは、紙以上に信頼できるものはないのではないかとも思うのだ。
そんな、今はどうでも良いようなことを考えている時だった。
私の背中を見つけて、
「おい!焔、手伝え!」
と言って、外科医の早中先生は、呼び止めた。
私の名前は、
焔 皐月(ホムラ サツキ)
女みたいな名前だけど、私はれっきとした男だ。
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