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そして、ベッドごとエレベーターに乗り、一階の受付を過ぎて、そのまま病院の正面の見事に咲き誇るソメイヨシノの下へと着いた。
早中先生は、もう意識も朦朧として、全身に黄疸が広がり、腹水と下肢浮腫が誰の目から見ても明らかなベッド上の患者さんに話しかけた。
「このサクラ、見たかったんでしょ?
春になって咲いてくれたよ。
きれいでしょ?」
早中先生がそう言うと、患者さんは、僅かにまばたきをした。
春の香りをはらんだ風が優しく吹くと、桜の花びらがひとひら、枕元に舞い降りた。
看護師になっていくらか経った頃だったが、今振り返ってみると、看護師として、まだまだ未熟だったのだと思う。
もちろん、今でも、まだまだ道の途中であることには変わりがないが・・。
あの頃の事を、あの瞬間を、私は今でも思い出す。
(中央配管:
病院内の酸素・空気(空気中の酸素濃度は21%程度)をはじめとした医療用ガスの供給を一括集中管理し、それぞれの病室へと供給するためのもの。
また、吸引のシステムも備えている。
病室では、ベッドの頭元の壁面にその接続口がある。
QOL=quality of life
個人を主体としたその人自身の生命と生活の質のことで、患者中心の医療の根幹をなすもの。
自分の価値観に沿って、自己実現がどの程度達成されたかによって判断され、本人の満足感が最も重要となる概念。)
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