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 二年三組の国語係はクラス委員よりも人気がない。フク先生が井上栞を指名するからだ。  国語係の定員は三名。誰もやりたがらないのでくじ引きだ。紙切れ一枚に三学期の良し悪しが託されるなんて、正直笑えない。  どうか平穏な日々を送れますように。祈りながら紙切れを開けば「当たり」の文字が書き殴られていた。 「先生、私が引きました」  長いまつげをわずかに伏せ、素直に告白をしたのは日下部さんだ。同情と国語係を免れた安堵が混ざり合う中、私も控えめに手を持ち上げた。  担任のフク先生はなんてことはないと、いつも以上に白い歯を覗かせる。 「日下部も宮本もそんな顔するな。国語係になって先生の手伝いをするのは悪くないぞ」  フク先生は今年の春、他校から移動になりうちのクラスの担任に配属された。悪い先生ではないけれど、頼りにはならない。空気を読めないのか読まないのか分からないが、いつもこんな調子だ。慰めにもフォローにもならないから、落ち込んだら自分でなんとかするしかない。  時間を巻き戻したい。あがいても決まったことは覆せないし、誰かがやらなきゃいけないのは全員分かっている。諦めるしかないけれど、ため息しか出ない。  だから明るく振る舞う日下部さんは本当に立派だと思う。 「フク先生、あんまりこき使わないでくださいよ」  日下部さんの冗談めかした一言が、かさかさの感情をそっと包む。彼女と一緒なのは唯一の救いだ。気乗りはしないけれど、頑張ろう。  畳んだくじ引きを机の奥にしまい込み正面を向けば、三人目の国語係がいる。窓際の前から数えて二番目。黒髪がだらしなく机の上に広がる彼女がこのクラスの問題児、井上さんだ。今日も熟睡しているようで、同じ係になった私達の名前すら知らなさそうに見える。
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