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 居心地の悪い沈黙を破り助けてくれたのは博さんだ。 「栞さん」 「ごめんなさい、行きましょう。宮本さんまたね」  井上さんとは何事もなかったかのように別れた。ひとまず帰ろう。それから今の出来事を整理しよう。  自転車に乗る気分ではなく歩いていると、おばさんの井戸端会議に出くわした。声は大きく内容は筒抜けだ。商店街の福引きの景品で盛り上がっていたが、私が通るのを待っていたかのように話題が変わる。 「そういえば、さっきそこで井上さんに会ったのよ。リハビリの帰りですって。栞ちゃんはいつもお父さんの世話をして本当に偉いわ。でも、娘に介護を任せきりな感じがしない? 奥さんの姿を見ないけれど何をしているのかしら」 「パート先を変えたのよ。ほら、栞ちゃんの下に妹がいるでしょう、習いごとの送り迎えに、PTAの役員を断りきれずに引き受けたから忙しそうよ。あんまりシフトに入れないって困っていたわ」 「あら、旦那さんは大手企業に勤めていたでしょう。事故に遭ったのはお気の毒だけれど、労災の扱いになったはずだから、お金はある程度入ってくるんじゃないかしら。それに生命保険も結構な額が下りたそうだし……」  耳を疑う話だ。少し前に会ったときにはボランティアだと言っていたじゃないか。私は井上さんとの会話を思い出す。そういえば、先ほど会ったときには隠したがっていた。もしも、お父さんの介護を知られたくなくて必死なのだとしたら、どうなんだろう。  おばさん達には悪びれた様子はない。私は自転車に乗ると思い切りペダルを漕いだ。耳が冷たくていつもより痛む。早く家に帰りたかった。
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