【6・結城勇気】

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そんな訳で…今、きちっと整理整頓されているこのアパートの部屋の雰囲気が…僕は、めちゃめちゃ意外だったのだ。 小説や漫画も本棚に綺麗に並んで置いてある。 「えっへん!実はこの前、一念発起して大掃除したのよ!断捨離よ!断捨離」 と、僕の目の前のテーブルにお菓子とお茶のグラスを置きながら、橋口さんはドヤ顔で言った。 「まあ…とは言え、この本棚の漫画や小説のほとんどは、相変わらず表紙カバーやら、しおりやらが無くなっちゃってるけどねぇ」 と、更にニコッと微笑む。 「アハハ。やっぱ、そっかぁ。相変わらずだなぁ。橋口さん」 僕も彼女につられて笑ってしまった。 しかし… やっぱり、彼女の顔色は…どことなく悪い…。 「ところで… 電話で言ってた相談したい事って一体、何? モヤモヤして、頭が変になりそう…なんて言ってたけどさ」 僕は、単刀直入に聞いてみた。 「うん…それがね…」 と、そこで彼女は少し表情を曇らせながら、ある話を始めた。 こんな話だ…。 何でも最近、橋口さんはかれこれ一週間近く… 毎晩、決まって同じ内容の夢を見るようになったのだと言う。 その夢の内容と言うのは… やっぱり、夢の中でも彼女は現実と同様にこの部屋のベッドで寝ている…。 そして不意に寝苦しくなり、ふと目を覚ますと… 何と!体が動かない! そして…暗い部屋の隅っこに… 何と! 一人の寝巻き姿の老婆が、ぼぉっと立っていて… 『コレハ…私ノ…物ダ…』 『コレハ…私ノ…物ダ…』 と、物凄く恨めしそうな表情で何度も何度も彼女の心の中に語りかけて来ると言うのだ! 「あ、あなたっ!一体、誰よっ!!」 パニクった橋口さんがガバッ!とベッドから飛び起きて、部屋を見回すと… 誰もいない…。 枕元の目覚まし時計を見ると…決まって深夜三時のウシミツ時…。 当然、彼女はそれから全く眠れなくなり… 朝までベッドの中でモヤモヤしながら、ギンギンの覚醒状態で起きているのだそうだ…。
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