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【8・鬼林健太】
俺…フリーターの鬼林健太は現在、平日に就活しながら土日はコンビニ店員のバイトで生計を立てているんだが、それとは別にある『掃除屋』の現場仕事もやっている。
その現場というのは、自殺したり病死したりして住人がいなくなったアパートの空き部屋や廃屋なんか…つまり、掃除は掃除でも、言い方を変えると『遺品処分』だ。
あれは…
今から一ヶ月ほど前の事。
俺は、ある現場の掃除をやりに職場の先輩と行ったのだが…その現場というのが郊外にポツンと建つボロボロの木造の一軒家だった。
何でも…その家には、身寄りの無いお婆さんが独りで住んでいたんだが、元々、心臓の病気を抱えていて急にポックリと亡くなってしまったらしい。
で、実際にその家に入ってみると…いやはや、足の踏み場も無いほど辺り一面ゴミが散乱していて…。
近所から、『ゴミ屋敷』と呼ばれていたみたいだ…。
ゴミの中には、たくさんのビールの空き缶なんかも転がっていて、心臓の病気を持っているにも関わらず、カナリお酒好きのお婆さんだったらしい。
それで、俺はその家の掃除をしていて…
ある一枚の葉書が、床に落ちている事に気が付いたんだ。
その葉書を拾って見てみると、それは〇〇ビール発行の物で裏面の上の方には『ナチュラル・ライトご愛飲キャンペーン!』と、デカデカとタイトルが銘打ってあった。
このキャンペーンは、コンビニでバイトをしている俺も時々、応募葉書を目にしているんで知っている。
缶ビールの丸い銘柄シールを集めて、葉書に貼り付けて応募すると抽選でこれまた缶ビールのパックがもらえるというヤツだ。
で…よく見ると、何と!その床に落ちてた葉書には、その銘柄シールが全て貼り付けてあったんだ!
つまりは、完全コンプリート!達成状態だ!
しかし…
葉書の下の方に有る、肝心の応募者の住所氏名の記入欄は…
未記入の空白になっていた…。
恐らく、この家で亡くなったお婆さん…このキャンペーンに応募しようと、せっせとビールを飲んでこの葉書にシールを貼り続けたのだろう。
そして、遂に全て貼り終わり、いざ応募しようと自分の住所氏名を記入する段になって…
不幸にも、記入できずに応募する前に急死してしまった…。
「いやぁ…。せっかくシールが全部、貯まったと言うのに…何とも、気の毒な話だなぁ…」
俺は、その亡くなったお婆さんに同情した。
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