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【終・綾波静子】
郊外にポツンと建つ…
ボロボロの木造の一軒家…。
近所から、『ゴミ屋敷』と呼ばれていた、その家には…
かつて、
一人の老婆が住んでいた…。
私の名前は…綾波静子。
数年前に夫に先立たれ、今は独り暮らしの未亡人。
子供はいないし、他に身寄りもいない。
今、住んでいる市街地の家は周りが騒音だらけで、本当に嫌気が差している。
毎日毎日…騒音でモヤモヤとした気持ちを抱えながら、生活しているのだ。
「ああ…せっかくの老後…。どうせなら、どこか自然に囲まれた静かな場所で、のんびり余生を送りたいわ…」
そう考えた私は、理想の新居を探し始めた。
そこで、相談に行った不動産屋の担当者、木村氏が私にすすめて来た物件というのが…
街中からバスで一時間ほど行った所に有る、とあるベッドタウン。
そのベッドタウンには現在、木造の建て売り住宅が八棟、建っていてそのうち六棟には既に入居者がいるとの事だった。
「なるほど…。
じゃあ、今のところ空いている物件は、二棟のみという訳ね」
「はい!奥様!
周囲は、自然に囲まれていて本当に静かで素敵な場所ですよ!
私としましては断然、A棟がオススメです」
と、木村氏が目の前で広げてくれた現地の区画図を見てみると…
彼がオススメした空き物件のA棟は…
周りをぐるりと他の家々に囲まれていた。
更に、私がよくその区画図を見てみると…
住宅群から少し離れた場所に…『入居済み』と書かれていない、もう一軒の空き物件がポツンと有る。
そこは、D棟と記載されていた。
「ねぇ、木村さん?
このD棟というのは、どうなの?こっちの棟の方が他の家から離れていて静かに暮らせそうだから理想的なんだけど」
私は、質問してみた。
すると…
「あ、D棟…ですか…。
あの棟は近々、取り壊す予定でして…」
との答えが。
「え?どうして?
取り壊すって…D棟だけが老朽化しちゃったって事?」
「い、いえ…。そういう訳では、ないのですが…」
ははぁん…。
と、その時…
私の妙な『カン』が働いた。
「もしかして…木村さん?このD棟って『出る物件』なんじゃないの?」
「えっ?」
木村氏の顔に明らかに動揺の色が見えた。
「やっぱり…そうなのね」
ここで私が言った『出る』というのは…
勿論 、『アノ世の者たちが出る』という意味である 。
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