【終・綾波静子】

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「分かりました…。白状します…」 彼の説明によると…。 実は…昔からD棟には「幽霊が出る」という噂が有るのだそうだ。 現に…D棟の入居者たちだけが、入居して間も無く次々と契約を解約して別の土地へと引っ越して行く…。 「うぅん…これは、イカン」 あれこれ悩んだ木村氏は、知人の霊媒師にD棟を視てもらった。 すると… 「D棟は『霊道』を塞いで建っておる」 という回答が返って来た。 『霊道』というのは… 霊たちがいつも移動の時に通る、決まった通り道の事。 その霊媒師の説明によると… ここから少し離れた所に有る霊園に住まう霊たちが夜な夜な墓から抜け出し、その霊道を通って様々な場所へと行くのだそうだ。 そして…夜明け前になると霊たちは再び、また同じ霊道を通って墓へと帰って行く。 D棟は、まさにその霊道を塞ぐ形で『でん!』と、建っているというのだ。 まあ、『塞ぐ』とは言っても霊たちはD棟をぐるっと迂回する訳ではなく建物の中をそのまま、すぅっと…通り抜けて行く…。 彼らは、本当に『ただの、いつもの通り道』として、D棟の中を通り抜けているだけとの事だった…。 「なるほど…。 まあ…例え、ただの通り道として霊たちが通り抜けているだけだとしても… D棟の入居者で霊感持ちの人には、毎晩のようにその霊たちの姿が家の中で見えてしまうという訳だな…。これは確かに当人にとっては、たまったもんじゃない…」 そう考えた木村氏は、思い切ってその事を会社に報告し検討を重ねた結果、D棟の取り壊しが決まった…との事であった。
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